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映画「プラットフォーム」観てきたよ(ネタバレありレビュー)

現在公開中のスペイン製のSFホラー映画「プラットフォーム」を観てきました。

先行して仕入れた情報に違わずなんだこれ!?なんだこれは!?という映画だったので自分の整理も兼ねて解釈していこうと思います。(※ネタバレあり。ストーリーほぼ最後まで言及します。)

「穴」が象徴するものは?

これはもう散々語られている上に劇中でも言及されているように、上から降りてくるプラットフォームに載せられた食料は市場に展開されている金を、階層は社会構造を示しており、まとめると世界を、特に近年の格差社会を象徴しています…というのは誰もがわかる作り。そんな理不尽かつシンプルな世界の中でもがき苦しむ主人公を約2時間ほど眺めることになるのがこの「プラットフォーム」という映画です。

主人公の動き

主人公のゴレンの動きを思い出せるだけ追っていきます。

1.48層で開始。トリマガシと名乗る老人から説明を受ける。残飯だが食料はあり、とりあえず楽に暮らせる
2.171層に下降。トリマガシに喰われかけるも子供を探す殺人者ミハルに助けられ、トリマガシの死体を喰って生き延びる。
3.23層に上昇。元管理者側の面接者と同室になり、穴の仕組みを説明される。各層が自分の取り分だけ食べれば200層分の400人全員に食料が行き渡ると知って下層の人間を脅して取り分け作戦を実行しようとするも今度はミハルの行いにより失敗する。
4.202(!?)層に下降。面接者は自殺。当然食料は無く自分の小指と死体を喰って生き延びる。
5.6層に移動。自力での上昇を望む同居人バハラトを説得し、暴力による食料の取り分けを実行するも道中、「偉い人」に諭されて暴力ではなく説得、管理者への伝言として「パンナコッタ」を守る作戦に変更。
6.ミハルが暴漢に殺害される現場に遭遇、ゴレンとバハラトも重傷を負うがパンナコッタだけは守り抜き、最下333層まで下降。ミハルの子供を発見。空腹の子供に伝言のパンナコッタを差し出す。
7.バハラトが死亡し、ミハルの子供を伝言としてプラットフォームに載せ、管理者に送ったのち主人公死亡(?)


基本的に上層と下層を行き来し、上層で希望を見出したと思ったら下層で挫折と苦境を味わいます。まさに人生山あり谷あり。

彼の同居人はそれぞれタイプが違います。一人目のトリマガシは過失で移民を殺害し、反省もせず嘘をつき自己を正当化し下層の人間を蔑む最低な男です。彼は12カ月も穴の中で過ごしており、上層も下層も味わって達観しています。自分のために人を殺すことも厭わない彼ですが作中の他の層の描写を見るに彼のようなタイプの人間が多い様です。

2人目の同居人は生き残るためには負担でしかない「犬」を持ち込んだ女性で元管理者側の人間です。施設の管理方法に疑問を持っておらず、理想家ですが目先の下層の人間すら説得できる説得力を持ちません。彼女は穴の実情を知らないため最終的には打ちのめされ、自殺します。彼女が死んだきっかけは「202層に食料が辿りつかないことを実感した」ことによるものか「200層までだと思っていたのにその下が存在していたことを知ってしまった」ことによるものかどっちでしょうか…?自分は後者だと思います。

3人目はバハラト。熱心な宗教家でロープを持ち込み自力での上昇を画策しますが失敗します。主人公のプラットフォームによる上昇、兼食料配布作戦に随行します。彼は主人公に匹敵する理想家で活動家です。また、自分や目的を犠牲にしても人を助ける良心を兼ね備えています。

それぞれ違う人間ですが、これも世界の縮図の様なもので「自己保全に必死な悪人」「世間知らずな理想家」「思いやりを持つ善人」と単純化させるとなんとなく身の回りにもいる様な気がしてイメージしやすいかも。

ゴレンの行動は理不尽な世界に正義と平等をもたらそうとする理想に基づいています。彼が唯一持ち込んだ本の主人公、ドンキホーテのように周囲から馬鹿なやつと罵られながら「仕組み」に抵抗しますが何度も挫折を迎え、最期にかろうじて希望となりうる伝言を送り出すことに成功します。彼が必死で行ったことは「管理者の間違いを指摘する」ことでした。

管理者の間違いとは?

管理者(責任者?)は描写や説明がほぼなされませんが、徐々に判明するのは

・管理者は穴の人間に敬意を払っている。(料理に贅を凝らし、髪の毛一本でも混入しようものなら叱責する)

・管理者は階層の見積を誤っている。(200層と思っているが実際は333層)

・管理者には穴に収容されている人間たちの声が届かない。(無関心なのではなく、上手くやっていると思っている)

・管理者は規則が正しく守られていると思い込んでいる。(16歳以下の人間は入所していないと

という問題を内包している事です。言うまでもなく、管理者は政府や国家権力を表しているのですが、「無策」かつ「誤った見積」が「根拠なき自信」によって是正されない状態はホラーとしか言いようがありません。お前らが管理してて内情どころか階層も収容人員も間違ってるとかどうなってんだよ!と思うかもしれませんが、思い浮かべてみてください。ここ日本にしたってCOVID19対策と五輪関連の動きを見る限り、管理する側の人間はどこも実情を正確に把握することをせず、無為無策のままにいたずらに死者を増やし続けているのでは?

現実との違いを述べるのであれば、この映画は暴力によらず管理者に実情を知ってもらい、間違いを正してもらおうと働きかけることで国家と国民の相互理解の道を見出すという一応は希望に満ちたラストシーンで終わります。ところが現実の世界はなかなかそうはいきません。国家は国民に耳を傾けず上層の人間のみを一方的に優遇し、なおかつ是正する意思もない国がほとんどでしょう。一見するとカニバリズム殺人レイプの横行する穴の生活の方が苦しく見えますが管理者に悪意が無く純粋であればこちらの方がマシだと言えるかもしれません。

「パラサイト半地下の家族」や「US」など格差社会に警鐘を鳴らす作品は近年、数ありますがこの「プラットフォーム」はかなりメッセージ性が強めです。ただし穴以外の描写がほぼなく、穴の存在理由や背景といった余分な情報が語られないため分かりやすいともいえるでしょう。こういう映画がもっと広まればいいのですが…いや、これがめちゃくちゃ流行る世界も嫌だな…

関係ないけどジョージ・オーウェルの1984が大量重版かかったみたいですね。こわあ〜


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