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和歌と、『君の名は。』、夏目漱石、そして恋のプレイリスト

 私は和歌が好きだ。音楽を聴くように、和歌に気持ちを重ね、和歌からここまでの長い長い距離に思いを馳せることが好きだ。

 この記事で、今まで私が触れた和歌の中から特にときめいた歌とその意味をまとめた。和歌集と呼ぶには短すぎるから、プレイリストと呼ぼう。
数多の「歌」の中からお気に入りを集めた和歌集は、千年前からあるプレイリストだ。

 現代にもよく通じる心情が心情が書かれている和歌も多く、中には新海誠監督の映画『君の名は。』や、夏目漱石の名言に関係のあるものもある。そんな面白く甘酸っぱい和歌の世界を少し共有したい。
 この記事が、学校で学んだ百人一首を超えた和歌の世界に興味を持つきっかけになってくれたら嬉しい。

※和歌には多くの書き方や解釈があります。この記事で取り上げたものは一例です。

恋ひ恋ひて 逢える時だに 愛(うつく)しき 言尽くしてよ 長くと思はば

万葉集・大伴坂上郎女

-私のことが好きなら会った時ぐらい甘い言葉をかけて欲しいの ずっと一緒にいたいなら

 私の中で一番好きな歌だ。ヘタレのあの人に、どうぞ。

月夜よし 夜よしと人に つげやらば 来てふに似たり 待たずしもあらず

古今集・詠み人知らず

-綺麗な月ですね、いい夜ですねと君に言うのは、来て欲しいと言うのに似てるね 待っていないわけじゃないよ

 「I love you.」を日本語訳しろ、という課題に、夏目漱石が「月が綺麗ですね。」と答えたという逸話がある。それを彷彿とさせ、最後の二重否定の一言が照れ隠しの可愛さを感じさせる。

月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ わが身ひとつは もとの身にして

古今集・在原業平

-月はもうあの頃の月ではないし、春もあの時の春とは違う。私だけがあの頃のままなのだ。

 月はいつだって変わらず一つしかないし、春も毎年訪れる。それでもあの人と過ごした季節は似て非なるもので、自分だけ置いてけぼり。

黒髪の みだれも知らず うち臥せば まづ掻きやりし 人ぞ恋しき

後拾遺集・和泉式部

-髪がぐちゃぐちゃになっているのも気づかないで突っ伏していたら、頭を撫でてくれた、あの人が恋しいよ

 どうやらこの時から既に人は頭を撫でられるとときめいていたようだ。別れの後同じように突っ伏していても、その手は感じられない。

思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを

古今集・小野小町

-あなたのことを思いながら寝たら夢に出て来たの 夢だってわかってたら目覚めなかったのに

 映画『君の名は。』のタイトルはもともと「夢と知りせば」だったという。この時代、想い人が夢に出てくることは彼が自分に気があるからだと言われていた。入れ替わった二人は想っていたのか、想われていたのか。

梓弓(あづさゆみ) 引けど引かねど 昔より 心は君に よりにしものを

伊勢物語

-弓を引こうが引かなかろうが、私はとっくの昔に君にひかれてるの

 最後の「より」は「梓弓 引けど引かねど」にかかっている。現代で言うところのトリガーだ。決定権は誰にもない。

朝寝髪(あさねがみ) 吾は梳(けづ)らじ 愛(うつく)しき 君が手枕(たまくら) 触れてしものを

万葉集・詠み人知らず

-今日の朝は髪をとかさないの。昨日の夜君が触れた髪だから。

 邦ロックの歌詞か?それか、握手会の後手を洗わない人。

われを思ふ 人を思はぬ むくいにや わが思ふ人の われを思はぬ

古今和歌集・詠み人知らず

-私のことを好きな人を好きにならなかった罰かな、私が好きな人も私を好きになってくれない

 みんな両思いだったらいいのにと、現代でも叶わぬ願いだ。

いとせめて 恋しき時は ぬばたまの 夜の衣を かへしてぞぬる

古今和歌集・小野小町

-どうしてもあなたが恋しいから、パジャマを裏返しに着て寝る 

 パジャマを裏返しに着て寝ると好きな人が夢に出てくるのは小野小町の頃からあったジンクスなのか。先述した通り、この頃好きな人が夢に出てくるのは大きな意味を持っている。夢の中でいいから会いたいし、両思いがいい、乙女だ。

 ここまでいくつか和歌を並べたが、私がまだ知らない歌が数え切れないほどある。またいい歌を見つけたら随時更新していく。きっと一つぐらいは過去に抱いた感情を思い起こしたのではないか。また和歌はその歌と意味だけでなく、作者の人生や歌の背景を知るともっと楽しむことができるから、そちらにも触れていきたい。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

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