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なぜSmartHRはユニコーンになれたのか

TAKA(@Murakami_Japan)です。今日は日本のスタートアップ・エコシステムにとっても、自分自身にとっても記録すべき日だと思いましたので、突然ですが筆をとりたいと思います。

本日、私自身も2018年から経営に伴走させていただき、2019年からは株主としても支援させて貰っているSmartHRが資金調達のリリースを発表しました。これまで何度も資金調達のリリースは見てきましたが、今回はいつもとは少し異なる感情も芽生えています。

それはSmartHRがユニコーンの仲間入りをしたからです。ちなみに、ユニコーンとは社会課題を目指し、ゼロイチでサービスを立ち上げ、急成長を遂げた結果、株主価値(=時価総額)が$1bn(=日本円で約1,100億円)を超える未上場企業を指します。上場企業のように多くの株主が自由に売買できる株式ではなく、未上場で流動性も制限されており、外部からはその存在が見えづらいため幻の動物を擬えて、また羽があえて中期的に大きく飛躍するイメージと重ねて、ユニコーンと呼ばれるようになったと思います(※正確な解説は別途googleで見てください)。

ユニコーンは目的ではない

冒頭に申し上げておくと、私個人もユニコーンを創出することを目的に活動しているわけではありません。持続可能な社会を、社会課題の解決を通じて実現していく中でスタートアップが果たせる役割があることと関係しています。スタートアップが共感性の高いパーパス(存在意義)やミッションを掲げて、その実現に近づく過程の中で、徐々に社会課題を解決できる公器としての輪郭が出てきた際に、その過程としてユニコーンという状態を通過していくものだと思います。

間違いなくユニコーンは通過点の遷移的な状態を指しており、社会インフラとして、社会の公器となるための準備をしている状況だと思います。ビヨンド・ユニコーンという言葉を随分前から好んで使っていますが、ユニコーンはあくまでも遷移的な通過点であるという自分の拘りがそこにあります。

ユニコーンとIPOの関係性について触れておくと、私は以下のように捉えています。IPOは上場することを指しますが、上場した未上場スタートアップはもうユニコーンではありません。あえて言えば上場ユニコーンという呼び方はできるかもしれませんが、厳密な意味では上場した時点でユニコーンではなくなります。

上場企業になるためには、上場プロセスを通じて証券会社や東証の審査を経て、より多くのステークホルダーと関係性を構築していく存在、すなわち公器として適性があるか、それに耐えうる事業や財務体質、内部統制、開示が持続的に行える会社であるか確認され、必要な準備を行っていきます。

ユニコーンとは未上場であるにもかかわらず、既に多くの従業員を雇用し、多数の顧客を抱え、また大きなお金を投資家から預かっている、また銀行から借入をしているという風に、上場企業に匹敵する、またはそれ以上のステークホルダーに対する責任を有している企業ということも言えると思います。

そのユニコーンが上場企業として羽ばたき、さらに大きな公器となることを期待されており、その大きな社会的責任を果たすためにも、仮に上場することとなった場合は、それに相応しい状態を整えていき、また持続的に発展可能なガバナンスを整えていく必要があると考えています。

さて、前置きは随分と長くなってしまいましたが、「なぜSmartHRはユニコーンになれたのか」について、私見をnoteしておきたいと思います。

SmartHRとの出会い

私がSmartHRのことを強く意識するようになったのは、2017年だったと思います。丁度、前職を退職し、今の会社を起業した直後だったと思います。信託活用型SOの導入を発表された時です。当時、こういう新しい取り組みにチャレンジする面白い企業だな、人事労務領域という大事な領域に挑戦しているからこそなのだろうか、と強く印象を持ったと思います。

その後、シリーズBでSPVでの調達を実施されたり、IVSでお会いし直接お話を伺ったりと、宮田さんや会社に対する思いや理解を深めていっていたと思います。そうして、2018年に経営アドバイザリーを通じて伴走するようになりました。

前回のシリーズC、また今回のシリーズDを通じて、大きな共通項としては所謂しっかりとしたラウンド設計で大型のラウンドを実施したことにあると思います。シリーズBではSPVを活用していますし、シリーズB以前のラウンドと、シリーズC以降のラウンドでは全く取り組みも狙いも異なるものになっていると思います。

そんなきっかけとなる資本政策の議論も2018年の経営アドバイザリーがきっかけだったと思います。その後、シリーズCはCFOの玉木さんを中心に、今回シリーズDはその後加入された元楽天IRの森さん等の加入もありチーム一丸となって、今回の資本戦略を議論し、実行されていたように思います。

その中核にあったのが、上場企業になっても恥じない、言い換えれば社会インフラとなるべく、社会の公器に恥じない組織体制、開示体制、ガバナンスの整備を大前提とした、上場後もお付き合いが続くであろう新たなステークホルダーとして海外機関投資家を加えていくというものだったと思います。

海外機関投資家を中心としたシリーズD

詳細は会社から発表される内容や関連する記事を見ていただきたいので、私からは簡単に触れたいと思います。その前に簡単に今回のラウンドの概要をご紹介します。

金額
シリーズD:約156億円(第三者割当増資・新株予約権付社債)
累計調達額:約238億円

参加投資家
既存投資家:Light Street Capital, THE FUND, Sequoia Heritage
新規投資家:Sequoia Capital Global Equities, Arena Holdings, Greyhound Capital, Whale Rock Capital Management, 他1社*
*社名非公開。1931年にアメリカ・ロサンゼルスで設立された世界最大級の機関投資家。運用資産は約2兆ドル

全て上場・未上場を通じて継続保有する機関投資家です。THE FUNDのみが国内機関投資家ですが、それ以外は全て海外の著名機関投資家になります。

色々な狙いがあると思いますが、今回のラウンドによって以下のような効果が期待されます。

1)未上場から上場まで連続的に保有してもらう株主基盤の構築
2)上場後も買い増し余力を十分に有した海外機関投資家に未上場時点から参画してもらうことでIPOにおけるメッセージング効果
3)上場後の株価形成の下支え
4)ファンダメンタルズに基づいた株価判断ができるプロ投資家との関係構築を通じて、上場後の対話を通じた株価適正化
5)未上場また上場時における資金調達オプションの多様化

2018年以降、このような資本政策の議論を繰り返してきましたが、これほどまでの優良な機関投資家を揃え、また大型のラウンドを成功させられたのは、経営陣が資本戦略を経営戦略の中核の一つに据え、適切に準備を重ね、組織を拡充してきたからに他なりません。

なぜユニコーンになれたのか

もちろん良い会社だったから、良い市場だったから、良いプロダクトだったから、良い経営陣だったから、ということに尽きるのかもしれません。その辺りは私から解説すると、内輪の褒め合いみたいになるので、少し遠慮しておきますw。ご興味ある方は中立的なメディア記事などをぜひご参照ください。

少しだけ、良い市場/プロダクト/経営陣の点に触れておきます。諸説あるかもしれませんが、私は2017年の時からその点において大きく変化をしたとは思っていません。今時の言葉で言えば、日本の非効率が残っている人事労務領域のDXは良い市場なのかもしれませんが、それは以前から同じだったと思います。少し変化してきたとすれば、競争環境、コロナ等も含めてDXの必要性の高まり、働き方改革や働き方に対する課題感や意識の高まり、などあげることはできるかもしれません。

プロダクトについてもものすごい勢いでUI/UXなど目に見える部分を磨き込んでいるにと止まらず、目に見えない部分も運営方法も機能もものすごい勢いでアップグレードされているのは事実です。ただ、2017年当時から良いプロダクトであるという認知は取れている状況にいたように思います。シリーズBやシリーズCにおいてはよりプロダクト力がエクイティ・ストーリーや会社の強みや魅力の中核に座っていたようにさえ思います。

良い経営陣についても、2017年以降、どんどん経営体制や組織は補強されていることは間違いありませんが、CXOクラスに限れば、2017年の倉橋COO/玉木CFOの参画で一旦出来上がった形を、その後発展拡張しているということもできます。

何が言いたいかというと、良い市場/プロダクト/経営陣という意味では、アップグレードはしていますが、2017年当時から素晴らしい状態にいたとも言えるのです。

ここで私があえてハイライト(※市場や経営陣に対して相対的にという意味です)しておきたいのは、良い会社という点です。良い会社とはどういうものでしょう。

SmartHRは素晴らしい会社

はい、投資もしているのでそういうのは当たり前なので適宜割り引いて聞いてくださいw

良い会社、素晴らしい会社とはどういうことを指すのでしょうか。良い市場、良いプロダクト、良い経営陣と何が違うのでしょうか。

私はこれまでの3年間の濃密なお付き合いの中で、SmartHRの会社としての進化や変化をものすごく感じています。

冒頭のユニコーンに対する考え方で触れているように、本当に素晴らしい会社は社会のインフラとなり、社会の公器となり、持続的に成長を続けられる状態を有した会社であるように考えています。

少し抽象的に感じられる方も多いかもしれませんが、もう少し具体的に言えば、市場やプロダクトや経営陣とは切り離された会社という存在に価値がある状態と定義できるように思います。

市場は永続的とは限りません。むしろ永続的でないと考える方が自然でしょう。だから、良い会社とそうでない会社の違いは、市場の魅力度が変化した時にこそ差があらわれると思います。日本企業で、半導体や携帯サービス、様々な市場で世界を席巻している時代がありました。しかり市場が変化した際に、そのポジションを失った会社は数えきれません。その差こそが良い会社であるかの違いとも言えます。

同じくプロダクトも永続的ではありません。つねに変化し、磨き続け、場合によっては自分自身のプロダクトを否定し新しい価値にシフトしなければいけないこともあります。1つのプロダクトで何の変化も加えず存続できている会社を私は知りません。調達方法、製造方法など目に見えないところも含めて、何らかの試行錯誤やアップデートを繰り返してこそ、プロダクトの競争優位性は維持できていると考えています。

経営陣も当たり前ですが永続的ではありません。人生には寿命が伴います。また個人の経験には賞味期限もあります。また、定期的な新陳代謝を行うことで、会社としての競争力や持続性を高める効果もあります。経営陣の能力だけに依存している会社が仮にいるとすれば、これほど危うい企業はありません。投資家も特定経営陣への依存度は、特定顧客の依存度かそれ以上にリスクファクターとして重く見る事項です。経営陣に価値がないということが言いたいのではありません。経営力は間違いなく重要ではあるのですが、それと良い会社であることはイコールではないと考えているのです。

つまり、良い会社、素晴らしい会社とは、市場やプロダクトや経営陣とは切り離された部分に価値が宿っている会社だと思います。

この3年間、SmartHRが会社に価値としてインストールしてきたものは以下のようなものがあります。もちろんこれが全てではありませんが、イメージがわけばと思いご紹介します。

資本政策や資本戦略

2018年当初、SmartHRといえども、資本政策に対する意識が今ほど高かったわけではありません。むしろ今と比較すれば、雲泥の差とも言えるかもしれません。私が、会社が会社として素晴らしい所以はここにあると考えています。

自らが注力してこなかった、新たな価値に対して真摯に取り組むこと。またそれを中途半端にやり過ごすだけではなく、前回のシリーズCや今回のシリーズDのように徹底的に考え、徹底的に行動し、徹底的に理想的な姿を追い求める。こういうことができる文化、またやってきた実績そのものが会社としての価値として宿っていくと考えています。

この会社であれば、IPOも上場後の資本政策も、決して手を抜くことなく、さらに高めていける、そういう良い会社なのだと思います。

ガバナンスへの姿勢

2018年当時は典型的なスタートアップの取締役構成であったと思います。それでも経験のあるVC取締役や素晴らしい監査役を起用するなど、その質については非常に高いものがあったと思います。ただ、一番の違いは宮田社長を筆頭にしたガバナンスに対する重要性の理解、認識のアップデートがあったことだと思います。

会社全体としてガバナンスの重要性を噛み締めてきたからこそ、2021年に発表した監査等委員会設置会社への移行が決断されたと思います。またこれに至るまでも多くの議論や、実際の取締役会の運営の工夫を経た、実感を持った判断だったと思います。

重要性に対する実感をしっかり持った良い会社であるからこそ、形式的ではなく本質的なガバナンスの構築に向けて、これからも歩みを止めることなく磨き続けていってくれると思います。このような文化や仕組みを持った良い会社は、市場やプロダクトや経営体制といった変化にも強い会社になっていけるのだと思います。

経営陣の役割

先ほどCXO体制に変化が少ないという趣旨のコメントをしましたが、実はその中身や役割は変化し、アップデートが続けられていると思います。それぞれのCXOが役割を広げ、デリゲーションを繰り返し、意思決定の仕組みなど、柔軟かつスケールしていくために日々変化を模索しているように感じます。

各経営陣がその役割に甘んじることなく、日々変化し、自らを磨き続けられる文化を持った会社は、スケールに必要なより収集な人材の発掘や育成にもプラスに働いていくと思います。そういうことが持続的にできるのが良い会社だと思います。

ESG/社会的課題へのフィット感

最後に、ESGなど社会課題へのフィット感についても触れておきます。多くのスタートアップは自らの事業とESGとの適合性を過小評価していることが多いと日々感じています。SmartHRも以前はそうだったと思います。

詳細は私から述べることはしませんが、ESGに対する高い意識は、自らの存在意義を見つめ直し続け、社会ニーズに応じて、組織やプロダクト、経営体制を見直し続けられることの証だと思います。

最後に

長々とラブレターを書いてしまった気分です。ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。

おそらく今回の資金調達のリリースを経て、ユニコーンという言葉が各メディアを賑わすことでしょう。ただ、気をつけなければいけないのはユニコーンは単なる数字のお遊びではないということです。

本当に大事なのは、いかに「良い会社」を生み出し、社会課題を解決し、持続的に社会を発展させていけるかということにあると思います。そのためにはユニコーンではなく、「良い会社」をいかに生み出していけるかという点に私自身ももっと拘っていけなければいけないと肝に銘じる次第です。そういう気づきをくれたSmartHRに最大限の敬意と感謝の念を述べたいと思います。

ちなみに、このSmartHRという良い会社は、今回の資金調達を経て、さらに以下の点を積極的に推進することになると思います。興味のある方はどしどしSmartHRにコンタクトいただき、ステークホルダーとなっていただければ嬉しいです。

・採用(引き続き積極的!!)
・プロダクト/サービス販売(益々積極的!!)
・新規事業創出(新しい価値創出に向けてさらに舵を切っていくでしょう!)

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