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逆イールドが起きる原因についての解説


逆イールドの状況

債券市場での長短金利の逆転現象である「逆イールド」が、米国債市場でも見られたことが一般のニュースや全国紙でも取り上げられている。

しかし、逆イールドがなぜ起こるのか。の説明が十分でない記事等がほとんどだと思われるので、解説することとした。

≪記事の例≫



≪記事より抜粋≫

 短期金利は中央銀行の金融政策に大きく左右される。一方、長期金利は市場参加者の経済の見通しをより強く反映するため、長期金利の低下は投資家が長期的な将来の経済の先行きを悲観していることの表れともいえる。長短で比べた場合、長い期間お金を貸す方がリスクが大きく、長期金利が短期より高くなるのが普通なので、長短金利が逆転する逆イールドが起きるのはまれだ。

日経新聞電子版より引用した。(https://www.nikkei.com/article/DGXKZO48614970W9A810C1EA2000/)


上記記事では、『長期金利は市場参加者の経済の見通しをより強く反映するため、長期金利の低下は投資家が長期的な将来の経済の先行きを悲観していることの表れともいえる。』とある。

しかし、「なぜ長期金利は市場参加者の経済の見通しをより強く反映するのか?」「なぜ長期金利の低下は投資家が長期的な将来の経済の先行きを悲観していることの表れといえるのか?」の説明はされていないように思われる。


逆イールドが起きる原因の概要

金利が低下した場合、短期債よりも長期債の方が得られるキャピタルゲインが大きいので、金利の低下を予想する投資家は短期債と長期債では相対的に(短期債を売って)長期債を買うという投資行動を取る。したがって、金利の低下を予想する投資家が多くなると、長期債が買われて、長期債の価格が上昇し、金利は低下する。

その結果として長短金利が逆転した現象が、逆イールドの発生である。

投資銀行での債券ディーラー歴も長い藤巻健史氏の端的な表現を借りると「イールドカーブは現在と将来の金利予想で形成される。」


金利と債券価格、キャピタルゲイン・インカムゲインの関係については、過去記事(マイナス金利の日本国債を誰がなぜ買っているのか?国内投資家の視点)も参照ください。


実際の数値例による確認

残存3か月、2年、10年の各米国債について、米国の政策金利が引き下げられる直前時点の2019年7月30日時点と、8月16日時点とを比較して、金利(利回り)と価格の変化、投資家の収益率を求めた。なお、価格に関しては、各米国債をゼロクーポン債とみなした場合の価格を金利(利回り)と残存期間から逆算した。(※実際は取引価格データ・クーポン・残存期間から金利(利回り)が計算されるが、結果としての収益率の計算は同じものになる。また、以下では「金利」を「利回り」の意味でも使用する。)

[政策金利]
■金利 7月30日 2.50% ⇒ 8月16日 2.25%(△0.25%)

[残存3か月債]
■金利 7月30日 2.08% ⇒ 8月16日 1.85%(△0.23%)
◎価格 7月30日 99.49 ⇒ 8月16日 99.54(+0.05,+0.05%)

[残存2年債]
■金利 7月30日 1.85% ⇒ 8月16日 1.51%(△0.34%)
◎価格 7月30日 96.40 ⇒ 8月16日 97.05(+0.65,+0.67%)

[残存10年債]
■金利 7月30日 2.06% ⇒ 8月16日 1.54%(△0.52%)
◎価格 7月30日 81.55 ⇒ 8月16日 85.83 (+4.28,+5.25%)


≪7月30日時点の価格=100.00とした場合の8月16日時点の価格の比較≫


政策金利の利下げに伴い各国債とも金利が低下したが、価格の変化(変化率)は長期債になるほど大きい。

金利と価格の計算式は

✔ 現在の価格×(1+金利)^(償還までの年数)=償還される金額
(^は累乗)

なので当然と言えば当然とも言える。

以上の数値例でも確認できたように、金利の低下に対して、長期債になるほど価格の上昇が大きくキャピタルゲインが得られる。したがって、金利の低下を予想する投資家は長期債を買ってキャピタルゲインを得ようとする投資行動をとることになる。


逆イールドが意味するところ

逆イールドは、「今後もさらに金利は低下(債券価格は上昇)するだろう」という予想が債券投資家の中で優勢となっていることの結果として表れているイールドカーブといえる。

景気が後退すると、通常、政策金利の引き下げが行われて市中金利が低下するので、「長期金利の低下は投資家が長期的な将来の経済の先行きを悲観していることの表れといえる」という説明はある程度正しい。

もっとも、実体経済の動向と実体経済の動向に関する投資家の予想・期待は、卵が先かニワトリが先かの関係にあって、どちらも相互に影響しあうもので、どちらが主従の関係ともなく、「西の空が曇っていれば雨の可能性が高い」のように、科学的に明確な因果関係があると分かっているものではない。投資家の予想が正しいかどうかは事後的にしかわからないことには留意が必要だろう。


分かりづらいまとめになってしまったけれども、結局、逆イールドも投資家の思惑で発生している現象で、相場の上げ下げの一局面に過ぎず、未来のことははっきりとは分らないので過度に悲観しても仕方がないのではないか。という尻切れトンボな締め方になります。

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