私の5年間は無駄だったってことですか?

 随分前にご相談に来られた方の言葉が今でも思い出される事があります。
「あの人の事を好きになって他の占い師さんの言うように待ちましたが、もう5年になります。本当に振り向いてくれるんでしょうか?」
 生憎、その時の占い結果は芳しいものではなくて……。

 こんにちは。占イ探偵ルドルフこと、占い師の西堀です。

 正直、それをそのままお伝えするのも躊躇ったのですが、嘘をつくわけにもいかず、結局カードのメッセージをお伝えしたところ、シーカー(タロットカードに自分の知りたいことを問いかける質問者さんのことです)さんからこんな言葉が。

「私の5年間は、無駄だったってことですか?」

 返す言葉を持ちませんでした。
 この言葉が出るということが、シーカーさんがどんな気持ちでこの5年間を過ごしてきたのか、そして、どのように過ごしてきたのかが、なんとなく、わかってしまった気がしたからです。
 ……しんどいですよね。
 その時は確か、シーカーさんの気持ちが少しでも軽くなったらいいと、人生には無駄なことなんてないとか、そのようなことをお伝えした気がします。ですが、当然、そんな言葉で気持ちが心が軽くなったりするはずがありません。
 まだまだ未熟だった、と言いたいところですが、残念ながら今の自分でも、その方に対してどのようなことを伝えればいいのか、わかりません。

何年も待ってしまう人の心理

 サンクコストの呪縛、という心理用語があります。
 これは、既に回収できないとわかっていても、そこに費やした費用や労力が大きければ大きいほど、諦めきることができず、さらに費用を投資してしまうという心理のことです。
 経済で主に使われる用語ですが、これは恋愛や勉強にも当てはまります。
 この場合、相手が振り向いてくれないと薄々気が付いていたとしても、その人のために何かを我慢していたり待っていたという意識が強ければ強いほど、コストを払ったという意識があればあるほど、結果的に、執着してしまう。
 そして、これだけ待ったんだから報われてもいいと思ってしまう。
 そういう気持ち、すごくわかります。
 自分にだってそういう苦い経験、ありますから。
 だから、占い師が一番伝えてはいけないメッセージって何かって言われたら、それは「ただ待つこと」だと思っています。
 ただ待つことがどれだけしんどかったか、知っているからです。
 それに、その時のただ待っていた自分は、思い違いをしていたんですよね。

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 付き合いたいのか、好きなのか

 待ったのに相手が振り向いてくれなかった、待った時間は無駄だったと感じてしまうということは、その待っている間、その人と楽しい時間を過ごしてこなかったということです。
 好きだからアプローチするのも怖いし、断られたり嫌われたらどうしようと感じてしまう気持ちはよくわかります。
 だから、付き合うという結果が出るまで待とうとしてしまう。
 順番が逆なんです。
 好きだから、その人と少しでも一緒にいようとか、楽しい時間を過ごそうとか、少しだけ勇気を出して、そういう時間を作るといいんです。だって好きなんですから、一緒の時間を過ごしたいでしょ?
 別に告白なんかしなくてもそういう時間って作れるんです。なんなら告白するよりいくらか簡単に、一緒にいる時間を作ることはできる。
 冷静に考えてみたら、付き合うとか付き合わないってその先の話なんですよね。
 なのに、付き合うっていう結果を優先しちゃってるんですね。
 好きな人と一緒にいたその時間より、付き合うっていう結果を優先しちゃうと、付き合うっていう結果が出なかったときに、自分のこれまでの時間を無駄だと感じてしまう。
 逆に、仮に振られたとしても、それまでの他愛のない時間を大切に過ごしてきたなら、
「あなたと付き合えないのだったら、あなたを好きだった時間は無駄だった」って、思えますか?
 僕はそれに気づけなかったんですね。

「結果より過程が大事」って言葉の本当の意味 

 結果がすべての世界は、0か100かの世界です。
 うまくいけば有益、それ以外は無駄。
 そういう世界がないとは言いません。
 ですが、それってあまりにも乾いていると思います。
 かといって、結果より過程が大事って安易に言ってしまうと、それはそれで違うと思う。結果は大事です。
 そもそも、過程ってなんでしょう?
 自分なりの定義を先に伝えてしまいますね。
「過程は結果に至るまでの小さな結果の連なり」です。
 恋愛だったら、告白するまでのたくさんの思い出の事、一緒にいた時間の事、勇気を出して食事に誘ってみた時の事、挨拶の時に少しでも笑顔を見せようとした事、服装に気を使ったこと、女性だったらメイクに気を使ったこと、髪形を変えたこと……。
 無数の行動とその結果の連なりが、例えば付き合うとか結婚とかの大目標に影響を与えてくる。
 そういうのを全部考慮しないで、ただ付き合うという結果だけに目を向けるということは、結局、付き合えたかどうかという結果以外のそれまでの自分の行動の結果を蔑ろにしているんです。
 目標となる結果は大事。
 それまでの無数の行動の結果が積み重なったのが、大目標の結果だから。
 けど、仮に結果が出なかったとしても、それまでに積み重ねてきた無数の行動の結果は、それを大切に扱ってきたなら無駄にはならないと思う。

 だから、冒頭のシーカーさんの問いかけ、
「私の5年間は、無駄だったってことですか?」
 この言葉を聴いた時に、とても悲しくなったんです。
 その人は、付き合えなかったら時間の無駄だったと思うような過ごし方を、好きな人としてしまったということだから。

「Ⅻ 吊るされた男」

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 タロット占いのカードの中に「吊るされた男」というのがあります。
このカードは、忍耐とか我慢を象徴するカードです。手足を縛られ吊るされた逆さづりの男が書かれているので、もういかにもしんどそうなカードなんですけど、その意識で見ているとどうにも引っかかるところのあるカードです。
 なぜか頭が黄金に輝いているんです。
 吊るされた男のメッセージは忍耐とか我慢して、ただ待つこと、防衛することではないんですよね。
 動けない中で、目や鼻や口や耳や頭を、そして直観を使って情報を集め機を伺うこと、いつか動き出すときのための準備をすること。
 吊るされていて、身動きが取れないと感じてしまうときには、僕はこの時間を無駄なものにしないように、時々、この吊るされた男を思い出します。
 

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