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【画廊探訪 No.076】森の中の自然の連環を大地の魂に刻み込んで ――河野太郎作品に寄せて――

森の中の自然の連環を大地の魂に刻み込んで
――『河野太郎展』(JINEN Gallery)河野太郎作品に寄せて――
襾漫敏彦

 非常階段の踊り場から、一本の木を眺めていたことがある。梢から枝葉の動く様を、ぼんやりと見続けていた。流れる時の中にいるのも忘れ、見ること以外が落ちたとき、フッと風の動きを感じた。

 河野太郎氏は、小さな存在との森の中での出会いを金属の中に封じこめる鋳造作家である。蝋で原型をつくり、それを土でおおい焼成していく。熱によって蝋が溶かされ昇華した肉体の痕跡は、空洞として残される。そこに業火で焼き溶かされた銅が流し込まれ、新しい肉体が生成される。
 土の中から掘り起こされた金属の表面に、河野氏は、酸を施して腐食させ、新しい時間をまとわせていく。
 
 森の中では、様々な時の流れが、それぞれのテンポで交わっている。大気の時、水の時、大地の時、万物は時間を刻む陽の光の移ろいに照らされながら樹木の時を育み、森に生きるものの時を養っていく。すべては、自分の歩調が刻まれた紐のように、綾取りを重ねて大きな模様を描いていく。
 河野氏は、森に迷いこんだ。自然から離れた人類の末裔は、人類を形づくる時の歩調と異質な時の連環と出会う。
 彼は、時の進行が限りなく停止した鉱物を地中から取り出し、火の力でもって新しい時間に目覚めさせる。そして水の時間をもって草木たちの森の時を再び凝結させた金属の上に再現していく。
 自分でも、相手でもないところに出会いは生じる。出会いの記憶の中に現れた想念は、様々な理(ことわり)の結びつきの連なりであり、作家は一枚のレンズとなって新しいスクリーンにその連環を投映していく。


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