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備忘録。7

 図書館で借りていた本を読んでは借り、借りては読む生活を過ごしているが、ようやく借りている本の数が一旦、0冊になる。また本を借りるまでは積読にある小説を読み続けたい(数えてないが大量にある気がする)。

1.箱谷真司『観光立国・日本』(光文社新書)

 インバウンド消費が途絶えた2020年、観光業は外国人にどれほど頼っていたかを認識させられた。そこからの2年間、全国各地でどのような政策が取られたか、そして、インバウンド消費の再開が進む中での観光業の未来について見通した一冊。
 京都はいわゆる観光都市であるため、生活しているとやはり、観光業の影響を受けないことはない。行きつけの喫茶店や飲食店が知らない間にSNSでバズって有名になっていたり、休日に何かの用でバスに乗ろうとすると観光客でいっぱいになっていたりする。確かに、観光客の経済活動で京都の都市は潤っているから、そういう影響を受けることは致し方ないとは思う。住民より、観光客への対応を優先、そういうことであったと思う。ただ、2020年からは大きく変わったような気がする。京都駅の地下ビルは地元の住民が積極的に来てくれるようなイベントを打ち出した。他にも地元の住民向けの戦略を取っていたような場所が多かったように思う(パッと思い出せるものがないため、曖昧な表現にとどめる)。現状維持ではインバウンド消費が0になる、都市として立ち行かなくなると気づいたことがこの2年間の大きな収穫であろう。これからは、住民と観光客が上手く共存できるような戦略を立てる必要があるのではないか。観光業を見限るという選択肢は京都、そして、人口が減少している日本ではありえないように思える。新たな観光地を増やすのではなく、既存の観光地の視点を変えて、観光客の目線を変えさせる。そして、それぞれの観光地に観光客がそれなりに訪れるようになる、それが策として割とアリなのでは、と私は思う。

2.伊藤亜紗『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書)

 目の見えない人は日常生活で得られる情報が少なく、生活する上で困難が多くて大変、そのようなありきたりな認識を今まで持っていたが、本書を読んでその認識が大きく変わった。目の見えない人が、どのように日常を過ごしているかを様々な事例を挙げながら紹介している本書、特に印象に残った事例は「ソーシャル・ビュー」という取り組みである。ソーシャル・ビューは目の見えない人と目の見える人が一緒に美術鑑賞をすることで、作品の新しい見方や意味を発見するという取り組みである。目の見える人が絵画の説明をして、それを受けた目の見えない人が様々な質問をする中で、お互いに絵画への理解を深めていく。ただ、漫然と見るだけであった美術鑑賞から、お互いに新たな知見を得ることができる美術鑑賞への転換が図られたこの取り組みは非常に興味深いものであると思う。「目の見えない=不便で大変」という従来のイメージが大きく変わる一冊だ。

3.杉山恒太郎『広告の仕事』(光文社新書)

 印象的な広告を多く生み出した著者が広告について考えたことを随筆風に綴った一冊。人にあるメッセージを発信する際、どのようなことを意識するかという広告の根幹をなす考え方や、現在、広告はどのような役割を担っているかという社会的な観点について、著者の人生経験から意見が提示されている。個人的に興味を惹かれた章は、著者がカンヌライオンズの参加後、公共広告機構(AC)で世界に通用する広告を作ろうと試行錯誤した過程が綴られている章である。過度に言葉に頼ることなく、どのようなアナロジーやメタファーでメッセージを伝えるかを綴った箇所は、私が今後、文章を組み立てる上で、どのような点に目を向ける必要があるかを教えてくれた。

4.秦正樹『陰謀論』(中公新書)

 昨年刊行された新書には陰謀論にまつわるものが多いと思う。この本と併せて読んだ及川順の『非科学主義信仰』もそうだ。共に興味深い内容を取り扱っているが、今回は『陰謀論』の方を紹介する。
 『陰謀論』では、陰謀論に陥りやすい人の特徴をSNS、政治への関心度、様々な角度から分析している(ちなみに、『非科学主義信仰』はアメリカ社会で広まりつつある陰謀論を著者の目線からルポ形式で綴った一冊。陰謀論の実情などを知りたい人は『非科学主義信仰』の方をお薦めする)。陰謀論はよくTwitterで広まるため、Twitter利用者が取り込まれやすい、世の中の実情に詳しい人間の方が陰謀論に取り込まれにくいなどの様々な陰謀論に対する認識は果たして正しいのか、それとも誤っているのか、多くのデータを用いて丁寧に説明している。
 この本を読んでいて、私は伊藤公一朗の『データ分析の力』を想起した。『データ分析の力』はデータ分析によって、実際に効用のある政策などを見つけ出す方法を紹介した一冊で、データで実際の所を明らかにするという点で、『陰謀論』とある種の近さを感じたのだ。『データ分析の力』が私の中での第2次新書ブームを引き起こした一冊なので、どうしてもこの文章に組み込みたかった。ごめんなさい。

5.川名壮志『記者がひもとく「少年」事件史』(岩波新書)

 今年が始まってまだ1ヶ月も経ってないが、この本は2023年に読んだ新書の中では個人的トップ10に必ず入る一冊だ。山口二矢から現代の少年犯罪までを扱いながら、匿名の問題や事件の背景について、司法や報道がどのように対応・分析したかを考察している。本書の中で、驚いた点が2点ある。1点目は、少年犯罪の揺籃期は、実名報道が当たり前のようにされていたことだ。今でこそ、人権問題のあれこれで伏せる報道が多いが、当時の表現の自由に対する解釈のせめぎ合いは興味深い。2点目は、その頃は罪を犯した加害者の親目線の報道が多かったという事実だ。今となっては顰蹙を買う可能性の高い報道であるが、当時はそのような視点もあったということに時代の差を感じる。
 少年が罪を犯す理由は、当初、家庭の中の問題と指摘されていたが、現在は個人の問題、社会の問題と捉えられる風潮がある。この変遷には、ある重大な少年犯罪が背景にあるが。詳細に書くと不快な方もいると思うので、割愛する。社会学を学びたいと考えている人にもおすすめの一冊だ。

 次は、小説紹介になりそう。では、また今度。

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