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備忘録。13

 最近、アニメにも手を出し始めたからか、点だけで知っていたことが線で繋がることが多く、エンタメは知っていれば知っているほど面白いな、と理解しつつある。作問モチベと小説モチベとアニメモチベが高いので、上手く時間を使いこなす方法を知りたい。

1.朝井リョウ『少女は卒業しない』(集英社)

 朝井リョウの作品を数年ぶりに読んだ。最初に読んだ『何者』は私が中学生の頃だったので、あまり覚えていない。ただ、中学時代と現在で彼の作品から受け取る印象は随分と異なるはずだ。それは、彼がよく描く高校生というステップを私が人生で既に経験してしまったということが大きい。彼の描く青春は実にリアルだ。誰しもそういう青春があったのではないかと錯覚させるほど、現実とフィクションの境界線の引き方が上手い。
 本作で描かれる少女は7人。廃校の決まった高校で行われる最後の卒業式の日、7人の少女は抱える恋心や後悔にこの日限りで別れを告げる。早朝の学校、卒業式直後の学校、放課後の学校、深夜の学校、そのどれもが実にリアルだ。もう少しこの小説世界に骨を埋めていたい。

2.綿矢りさ『ひらいて』(新潮社)

 一言で言うと、主人公の愛は狂っている。やや作品に踏み込んだ話をすると、愛は思いを寄せるクラスメートの「たとえ」が教室の机に隠している手紙を盗む。手紙の内容から、「たとえ」と付き合っている人がいることに気づいた愛は、「たとえ」の彼女に接触を試みるようになる。このように、愛の行動は狂気的だ。ただ、それが良い。青春の何をやっても許されるような空気が、愛の狂気的な行動によって表現されている。
 実を言うと、綿矢りさの小説を読むのは初めてだった。青春の瑞々しさや愚かさをここまで絶妙なバランスで表現されるとハマらないわけにはいかない。本作で言うと、物語終盤、美雪(「たとえ」の彼女)の部屋で愛が謝罪する場面の描写が際立っていた。破茶滅茶な主人公をここまで魅力的に描ける理由が知りたい。

3.住野よる『腹を割ったら血が出るだけさ』(双葉社)

 主人公の茜寧は周囲の反応を敏感に察知し、円滑なコミュニケーションを取りながら、本心を隠す女子高生。めったに本を読まない彼女は『少女のマーチ』という小説にハマり、その主人公を自分に置き換え、作品に対して深い深い愛を持っていた。彼女が街中を歩いていると、『少女のマーチ』の主人公を大きく変えるきっかけとなる「あい」という登場人物そっくりの人物が目の前に現れた。聞けば、その人も名前が「あい」だという。そこから彼女は、現実世界の「あい」と小説世界を追体験するようになる。
 本作には茜寧、小説から飛び出してきたかのような「あい」、「あい」が推しているアイドルグループのメンバーである樹里亜、茜寧の幼馴染である竜彬が登場する。本作は一人称の頻繁な入れ替わりを特徴としており、その中でもこの4人の出番が圧倒的に多い。特に、本作の展開を左右する上で重要になるのが、樹里亜の視点である。そもそもアイドルという存在は、100%の素で表舞台に出ているというわけではなく、ある程度の嘘が混ぜられている(素が100%のアイドルがいたらごめん)。その点で、茜寧と樹里亜の嘘の塗り重ねを比較すると、作品がまた違って見えてくる。茜寧の嘘は友達からよく思われたいための嘘。樹里亜の嘘はアイドルとしての樹里亜を確立するための嘘。それらの嘘が、「あい」や『少女のマーチ』をきっかけに、どのように変化するかは是非、その目で確かめてほしい。
 住野よるの作品の美しさと愚かさが好きだ。『青くて痛くて脆い』で描かれたどうしようもない痛々しさと、『君の膵臓をたべたい』で描かれた死と向き合う強さ、それらの要素を上手く取り合わせた作品が『腹を割ったら血が出るだけさ』だ。物語の美しさを信じることのできる一冊だった。
 あらすじとはまったく関係ない話にはなるが、『ひらいて』の主人公と同じ名前の「あい」という登場人物がいることが個人的に面白かった。ついでに言うと、現在放送中の『【推しの子】』も「アイ」という登場人物がいる。これほど色々な意味が込められる名前もそうないだろう。小説を繋がりで読んでいるわけではないが、このように他の作品との繋がりを偶然見つけられた時は楽しくなる。今回紹介した3作品はどこかテイストが似ているような気がする。

 『腹を割ったら血が出るだけさ』の装丁は最近読んだ作品の中で一番好き。

#読書 #小説


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