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備忘録。15

 約2ヶ月間、noteを更新していないと気づき、「さて、その間は何を読んでいた?」と読書記録を確認した。それなりに小説を読んでいた(ややラノベが多いような気はするが、意識的にラノベに触れるという生活を送っていたのからだ)。それでは、「なぜ少ない?」という考えに至った時、私は1つの可能性に思い至った。DMM TVの加入であろう。よく言われる「可処分時間の奪い合い」を身をもって感じた。全部と上手に付き合う時間が欲しいが、それはそれで物に溺れるという感覚がして、どうも嫌な気分である。かといって、併用も論外である。私はラジオを聴きながら、本を読むほどのキャパを持ち合わせていないし、何より作品と一対一で向き合っていないという感覚がどうも受け付けない。1つ1つの作品と向き合いながら、長文感想をつらつらと書くスタイルを続けるほかはあるまい。


1.山田七絵 編『世界珍食紀行』(文春新書)

  開発途上国の専門家が世界各国で体験した食にまつわるカルチャー・ショックをまとめた一冊。計39個の体験談が収められており、1個につき6ページ程度のため、非常に読みやすかった。
 10ページに1回程度、カルチャー・ショックを受けていた。「それも食べるの?」や「それは美味しいの?」といった疑問が頭の中で渦巻いていた。ただ、日本にも他の国から見ると、変わった料理があるのであろうという至極当たり前な結論に至った。個人的に驚いたのは、ラオスの章でカブトムシの素揚げの写真があったことだ。ちょっと面食らってしまった。全体的に知らないことが多く、読んでいて面白かったが、もう少し写真が多いとイメージが湧きやすいのではないかと思った。

2.太田直子『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』(光文社新書)

 『ボディーガード』などの映画で字幕を手がけた著者が映画の字幕作成の裏側を自由に綴った一冊。新書というより、随筆やエッセイに近い印象を受けた。
 映画の字幕は他の翻訳と違って、文字数という大きな制約がある。字幕の表示される僅かな時間の中で、元の意味をどれだけ変えることなく伝えるか。それは、ある程度の文字数が許される吹き替えや本の翻訳と性質を異にする。本書では、その表現への挑戦を具体的な事例を持ち出して説明しており、字幕作成の仕事の奥深さを見て取ることができる。また、著者と配給会社の社員との描写を巡っての対立もおもしろおかしく記述しており、字幕作成の裏側をユーモアを添えて紹介している。海外映画は視聴の気軽さからつい吹き替えを選んでしまうことが多いが、これからは字幕で視聴する回数も増やしたい。

3.広瀬浩二郎『世界はさわらないとわからない』(平凡社新書)

 「座頭市流フィールドワーカー」や「琵琶を持たない琵琶法師」を自称する著者が、触覚を使った展覧会「ユニバーサル・ミュージアム」を実現するまでの記録と様々な学者との対談をまとめた一冊。
 著者が研究者として活動する国立民族学博物館(民博)では、他の博物館ではガラスケースに覆われるような資料も間近で見られることが特徴的だ。著者はそこからさらに踏み込んで、「さわる」ことに重点を置いた展覧会を民博で行った。著者の体験談を聞いていると、是非とも参加したかったという思いが強くなった。私自身、博物館や美術館に行くことは多いのだが、年齢を重ねたからか、「さわる」という展示に消極的になっていることが多い。大阪市立科学館を訪れた際も、展示で全力ではしゃいでいる小学生を尻目に、淡々と展示を見ていた。展示はそういう風に見るものだ、という固定観念が染み付いている私のような人に、著者は「さわる」ことの重要性を訴えている。視覚だけでなく、触覚も使って世界を知りたくなった。

4.ガイ・ドイッチャー『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』(ハヤカワ文庫NF)

 本書のテーマを端的に表現すると、「言語は人間の考え方にどのような影響を与えるか」である。言語学の研究の成果を追いながら、言語と思考の曖昧な関係の謎について迫っている。
 本書では、色、方向、ジェンダーといった側面から、各言語の違いを紐解き、その言語を話す人々の考え方について考察を加えている。その中で、言語の優劣に関する誤った認識や、従来の言語学に対する疑問を提示しており、あくまで「言語は話者にとっての世界の切り取り方である」という印象を受けた。本書の中で、私が重要なメッセージであると考えていることは、言語の話者が特定の色を区別する言葉を持っていないからといって、その色と他の色を区別できていないとは限らない、という指摘である。私たちはとかくに、自身の常識で物事を考えてしまい、そこで優劣をつけてしまいがちである。しかし、実際はどうであろうか。自身の世界を捉え直すきっかけになる一冊だ。

5.高階秀爾『日本人にとって美しさとは何か』(筑摩書房)

 高校の時、現代文で本書を扱った記憶がある。それから、本書を一度通して読んでみたいと思っていた。本書を見つけた時、真っ先に授業で扱った文章を読みたいと思ったが、肝心の内容を忘れていたので大人しく最初から読むことにした。おそらく、授業で扱った文章は第3章に収められた「実体の美と状況の美」ではないかと思う。他の文章に既視感は感じなかったが、これだけ「知ってる!」という感情に支配されていた。
 「実体の美と状況の美」では、日本と西洋の美に対する価値観が根本的に違うことが示されている。それは、エッフェル塔やミロのヴィーナスといった「実体の美」に対して、日本人の好む美は「雪の降る清水寺」や「古い池に蛙が飛び込んだ音」のような「状況の美」と説明することができる。この対比をはじめとして、本書では日本と西洋の価値観を比較することで、日本人にとっての美しさについて迫っている。

 そろそろ「本なら何でもそろう」を自称したい。

#読書 #新書 #文春新書 #光文社新書 #平凡社新書 #ハヤカワ文庫NF

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