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備忘録。14

 TOHOシネマズに映画を観に行った。チケット売り場にめちゃくちゃ変なオブジェがあり、「謎すぎるだろ」と内心でツッコみながら、目的の映画のチケットを買って無事鑑賞を終えた。翌日、ミニシアターで面白そうな映画を上映していることを知り、足を運んだ。前日に見ためちゃくちゃ変なオブジェの記憶がふと蘇った。「いや、この映画の小道具かよ」と内心でツッコミを入れた。冬の貴船を舞台に、2分間のループが延々と繰り返される映画。久しぶりに映画館でめちゃくちゃ笑った。

1.『百合小説コレクション wiz』(河出書房新社)

 アサウラ、斜線堂有紀、深緑野分など、近年活躍する作家8名によるアンソロジー。私が本書を見つけたのは、書店の新刊コーナーを適当に眺めていた時だ。直感的に面白そうと思ったことに加えて、百合小説をそもそも読んだことがなかったので1冊くらい読みたい、という軽い気持ちに導かれて、そのままレジに向かった。
 結局、斜線堂有紀の作品にハマる運命にあるので、今回も紹介することになる。「選挙に絶対行きたくない家のソファーで食べて寝て映画観たい」は、「選挙に絶対行きたくない…(以下略)」と考えている那由多と、選挙によって同性婚が当たり前になる社会を願う恵恋(えれん)の同性カップルのやり取りが描かれている。那由多はとにかく同性愛の権利を訴えるイベントを嫌う。恵恋に何度も誘われても、嫌だからという理由に色々な理屈を付け加えて断る。恵恋はいつももっともらしい反論に言い返すことができなくなり、泣き始める。那由多はそれを慰める。そんな日々を繰り返すカップルのやり取りがテンポよく続く。
 那由多のどこか現実を冷めた目で見るような視点が、私には現代社会の象徴に思えた。選挙に1票投じた所で問題は解決しないし、イベントをSNSにシェアした所で意味はない。那由多はそういう風に現実を少し離れた場所から見つめている。これは、恵恋に「当事者である自覚が足りない」という言葉で批判される。ただ、那由多を頭ごなしに批判することは私にはできない。実際、私はする事が望ましいとされている事柄を、めんどくさいという理由で適当に放置する事がある。それが、那由多にとっては、恋人とのデートに直接関係しないと考えている運動やデモであったというだけの話だ。那由多にとっての現実は、同性婚を目指すための法整備などではなく、恵恋とただひたすらにイチャイチャすることなのだ。自身を現実から俯瞰して、都合の良い場所だけで自由に暮らす。そういう考えが当たり前になっている現代社会にうってつけの小説だ。
 他に収録されている作品には、正面から百合を描いた作品や、百合っぽくない作品、はたまた、登場人物がぶっ飛んでいる作品もある。1人でも好きな作家がいれば、是非ともおすすめしたいアンソロジーだ。

2.伴名練『なめらかな世界と、その敵』(早川書房)

 ずっと気になっていた本。ようやく読めた。
 SF作品は設定が複雑で読むのが難しいという個人的なイメージを持っていたせいで、これまでSF作品に触れてこなかったが、最近、ようやく読めるようになった。とはいえ、これは私の理解力が上がったというより、私の好みの小説のジャンルがSF方面に延びただけのような気がする。本書はSF作品の中でも、内容が難しくない作品が多いので、SFを初めて読むという人に是非ともおすすめしたい。
 個人的に一番好きだった作品は、「美亜羽へ贈る拳銃」と「ひかりより速く、ゆるやかに」だ。
 「美亜羽へ贈る拳銃」は書き出しにある「彼らが、いかに互いを愛し合わなかったかの物語を。」という書き出しが凄い。「どういうことだ?」と読者を読みたい気持ちにさせる。人の感情を改造することができるナノマシンを打ち込んで実継(語り手)に恋するようになった美亜羽と、彼女を愛することはできないと苦悩する実継の2人の心理描写が巧みだった。人の感情をいじくるという設定だけで、ここまで純度の高い作品を書ける伴名練の才能に惚れてしまう。物語の結末は是非、自身の目で。
 「ひかりより速く、ゆるやかに」は特殊な災害に巻き込まれた新幹線の乗客と彼らの家族を描いた作品である。設定がめちゃくちゃ面白いので、詳細をここで書くことは控える(試読版があるので興味のある方は以下のリンクから)。

 本作で描かれている出来事は、自然災害と被害者遺族の話題と重なる点が多い。ショッキングな事件が起こると、報道は面白おかしく内容を書き立てる。それは、一種のコンテンツ消費ではないかと私には思えた。コンテンツ消費自体が悪いとは考えていないが、遺族にとってはたまったものではないだろう。懸命に現実を取り戻そうとする被害者遺族のことを思い浮かべた作品だった。

3.誉田哲也『武士道シックスティーン』(文藝春秋)

 私はスポーツと距離がある。両親はスポーツが得意な方で、遺伝上はスポーツを好きになってもいいのだが、どういうわけか関心が薄い。かつては習い事として水泳をしていた時期もあったのだが、いつからかスポーツの「勝利」に類する概念を避けがちになっていた。あくまでスポーツは楽しみたい。その考えがいつからか私の中で中心を占めるようになり、勝負事には本気でのめり込めない私がいる。
 本作では、「勝利」が頭の中を渦巻いている香織と、「お気楽不動心」と称される心持ちで気ままに剣道をする早苗を対照的に描きながら、2人の少女の成長を描いている。私と対極にあるのが香織で、私と近い立場にあるのが早苗である。私が勝負事に類する概念を避けるようになったことに原因があるように、香織と早苗にもそう行動するようになった原体験というものが存在する。本作では、それを明かすことで、2人の少女の行動原理に納得感のある説明を加えていた。本作を読んで、スポーツに対する勝負一辺倒なイメージが少し変わった。少しスポーツと距離を縮めたいと思った。

 一旦、積読を本格的に減らす読書をしようと思う。

#読書 #小説

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