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備忘録。4

  小説を久しぶりに読んでいる。小説は新書みたいに細かく章立てされている作品が少ないので一気読みしてしまうことが多い。できるだけネタバレしないように進めるが、あらゆるネタバレが嫌という方はブラウザバックを推奨する。

1.瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文春文庫)

 去年からずっと読みたいと思いながら手をつけていなかった小説。映画も見ようと思っていたのに知らない間に上映が終わっていた。
 かなり雑に要約すると、父親と母親が数回変わった主人公・優子の成長を描いた小説である。かといって、生まれた頃から順番に描いているわけではなく、時系列を行き来しながら優子の年表が埋められるような形で物語は進む。所々、「なぜ?」と思うような点が散りばめられており、その答え合わせが最後に待ち構えている。
 タイトルに「バトンは渡された」とあるように、父親と母親というランナーに仮託された存在が、優子というバトンに仮託された存在を繋ぐという物語なのであるが、こう考えると気になる点がでてきた。これでは主人公の優子がバトン、リレー競技においては明らかに「従」の存在になってはいやしないか、ということだ。もちろん、親目線で見ると、親自身が「主」で優子が「従」ではあるが、釈然としない。ここでこう考えてみた。親目線で見ると確かに優子は「従」ではあるけれど、優子がランナーになる可能性もあるのではないかと。優子もまた親というランナーからバトンを受け継いで次の世代にバトンを渡すランナーではないかと。そうなると、このバトンは一体何なんだとなる。私が思うに、優子が約20年間、父親や母親からもらった愛こそがバトンではないかと思うのだ。優子の生みの親、育ての親は形こそ違えど、優子に精一杯の愛情を注いでくれた。その愛こそが優子を形作っており、その愛こそが彼女が子供という次の世代のランナーに受け渡すものではないかと。読んだことのない方は是非、読んでみてください。
※作者の瀬尾まいこ氏は中学校で陸上部の顧問経験があるよう。

2.今村翔吾『幸村を討て』(中央公論新社)

  『塞王の盾』で直木賞を受賞した今村翔吾の最新作(まだ『塞王の盾』を読んでいない!)。大阪の陣で活躍した真田幸村をまったく別な角度で描いた小説。
 ほとんど前情報を入れずに読んでいたため、序盤から「これは実はミステリーなのか?」と思うことがしばしば。真田幸村の活躍をただ記述する歴史小説とは違うことに気づきながらも、先の展開が気になったので一気に読み進めてしまった。
 描かれている真田幸村は間違いなく真田幸村であるが、どこかおかしい、章が進むにつれてその違和感が明らかになっていく。小説の題材に何度もされている真田幸村をフィクションという形で、まったく別の筋書きにしてしまう今村氏の腕に唸ってしまった。実家の『真田太平記』を読破したくなった(ちょっとしか読めていない)。

3.アガサ・クリスティ(訳者 黒原敏行)『ナイルに死す 新訳版』(ハヤカワ文庫 クリスティー文庫) 

  これまでの人生で読んできた小説が、21世紀以降の日本の小説中心であることが私の読書人生で唯一恥じるべきことではないかと最近思っている。日本の近代文学をそれほど読んでいるわけでもなく、海外文学もそれほど読んでいない。まして、海外ミステリーは『ダ・ヴィンチ・コード』しか読んでいない(本当に恥ずかしい)。海外文学は人生20年で自然に触れてきた知識しかない。本当に読書遍歴が偏っているので、誰か読書メーター交換しましょう。おすすめ小説をたくさん教えてください。というわけで、アガサ・クリスティーも当然初挑戦なわけだ。
 肝心の事件が起きるのは小説全体の50%に到達した辺り。それまでは名探偵のポアロと事件の登場人物の紹介が続く。ミステリーは早く事件が起きて、早く名探偵が推理してくれ(暴論)と思ってしまいそうになるが、『ナイルに死す』ではそれをまったく感じなかった。1人1人の登場人物の細かい台詞それぞれに意味がありそうで、何度も見返したくなる。また、事件はまったく起きないが、ある程度物語の波というものがあり、読者が自然と飽きないようになっている。これがアガサ・クリスティかと衝撃を受けた。こんなに面白いなら早く誰か教えてくれよ、と栓無い八つ当たりをしてしまう。私はミステリーの犯人をどうしてか忘れてしまう記憶力をしているのだが、この事件の犯人は忘れられそうにない。それくらい印象的なミステリー作品だった。

では、また今度。

#読書 #小説

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