見出し画像

備忘録。12

 最近のテレビアニメは、それこそ映画ではないかと疑ってしまうレベルの作品が多い。『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』は第1話の無限城の作画レベルが群を抜いており、『推しの子』は第1話が作品のつかみとしてこれ以上ないレベルに完璧だった。
 このようなことを書いているが、私はそもそもテレビアニメを毎週視聴する習慣がなかった。昨年は一気見で話題作を追いかける程度で、毎週見ていた作品は『鬼滅の刃 遊郭編』や『SPY×FAMILY』に限られる。それも、「話題だからとりあえず見ておくか」のような軽い気持ちである。なぜ、今期からアニメを視聴しているのかと問われて、明確な返しが思いつかないが、とりあえず面白いものは気になるのだ。元を辿ると、クイズの問題を作る際に、あらゆるジャンルを揃えるために色々調べたら興味を持った、そういう話だと思う。趣味ジャンルを掘り進めて作問することも楽しいが、知らないジャンルを色々調べて次の好奇心への糸口を作っておいた方が絶対に良い。
結局、好奇心があった方が人生は楽しい。クイズ大会も開催した方が良い。前置きが長くなりすぎたが、本題に入る。

1.斜線堂有紀『恋に至る病』(メディアワークス文庫)

 3月下旬に東京に行く用事があり、移動時間に読んでいた本。最近、ヒロインが主人公を色々かき回す系統の作品に触れすぎている気がする。完全に性格がねじ曲がってしまう。本作を大雑把に要約するとこうなる。
「なぜ、彼女は自◯教唆ゲームを生み出したか」
そこに至るまでの「僕」の青春が本作で綴られている。
 本作の最大の魅力は、ヒロインの寄河景(よすが けい)の描写ではないだろうか。景は一種のファム・ファタールではないかと思うが、それを超越した魅力を感じさせる。10ページ、主人公と景の初対面の場面から抜粋する。

 教室の後ろの方、窓際から二列目。まるで示し合わせたかのように視線を集めていたのは長い髪を二つに結んだ、完璧な女の子だった。
 赤いシュシュで括られた髪の毛が重力に逆らって跳ね上がっている。白い肌は窓から差し込む光できらきらと輝いていた。自然光のスポットライトに負けんとばかりに、茶色がかった目が輝きで泡立っている。驚きと喜びを全身に湛えながら、彼女は僕の方を真っ直ぐに指さしていた。僕が何かを言うより先に、彼女が形の良い唇を開く。

斜線堂有紀『恋に至る病』p.10

 冒頭から景がいかに魅力的な人物であるかが活写されている。いくら人との出会いは初対面が大事とはいえ、初対面でここまで魅力的な人物と印象付けられると、それ以外の感情を抱くことが難しいであろう。存在が罪だ。以降の景の描写を見ても、「作者も景に惚れてますよね?」と言いたくなるような描写が続く。彼女に人生を狂わされたくないが、狂わされたいとも思ってしまう作品だった。

2.朝倉秋成『九度目の十八歳を迎えた君と』(創元推理文庫)

 社会人になった「僕」はある日、駅のホームで高校の同級生・二和美咲(にわ みさき)の姿を目撃する。彼女は普通の姿ではなかった。彼女は制服を着た18歳の姿そのままだったのだ。彼女がなぜ18歳のままなのか。彼女の関係者への調査から、「僕」はその真相を知ることになる…。
 簡単な感想を記すと、やはり朝倉秋成は伏線の張り方が上手い。青春を送る学生の若さや未熟さの描写が上手い。流石に発作を起こす。勘弁してほしい。
 私は本作を読んで、学生と社会人の違いはどこにあるのかと考えた。必ずする必要のあることが増える、責任を持つべきことが増える、現実を見据える必要がある…。最低でもこれくらいは変わるのではないだろうか。ただ、その中で学生時代に抱えていた色々なものを捨てながら成長する。そうであるならば、社会人って、そういうものか、と諦観の念を私は抱くであろう。ただ、社会人にだって、実は夢は持てるんじゃないか、と微かな希望を抱いている私もいる。「大人になる」とはどういうことなのか、考えさせられた一冊だった。

3.辻村深月『傲慢と善良』(朝日文庫)

 表紙が齊藤京子にしか見えないといつも思っている。人生初、辻村深月のような気がしていたが、過去に1作読んだことがあった。ちなみに、積読に『凍りのくじら』があるので3冊読むことが確定している。
 主人公の婚約者が失踪した。2年以上付き合っていた彼女との婚約を決めた矢先の出来事である。彼女の失踪の手がかりを探るため、主人公は彼女の関係者へ聞き取りを重ねる…。
 積読の中からどの順番で読むかはあまり意識せず、結構適当に選んでいるのだが、関係者への聞き取りという共通点で、図らずして朝倉秋成の小説と連続性のあるような作品を選ぶ結果になった。ちなみに、本作を読んでいた時に『ブラタモリ』の録画を見ていたら、前橋が特集されていた。本作でも前橋が登場するので、奇妙な符号の一致だった(2月の放送回を今更消化している)。共通点を探して読むのは、結構面白いものだ。
 本作は恋愛小説やミステリー小説の面の皮を被った、誰しもに起こり得る人生の小説である。私は婚活をしたことがないので、本作で描かれている婚活の話を現実感を持ちながら読んでいない。しかし、婚活の描写で描かれている「傲慢」と「善良」の対比。誰しも傲慢な一面があり、善良な一面がある。それをふと気付かされる一冊であった。そして、自身の傲慢と善良との付き合い方を全て言い当てられたような気がした。読んでいる最中、心情を全部言い当てられたようで怖くなった。恐るべき人間観察力である。

 今回紹介した3冊はどことなく似ているような気がする。

#読書 #小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?