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備忘録。8

 すぐ読めると思って色々買ってしまう小説、非常によろしくない。

1.湊かなえ『豆の上で眠る』(新潮文庫)

 失踪した姉が2年の後に、帰ってきた。しかし、主人公は微かな違和感を抱き続ける。「彼女は本物なのか?」と。
 湊かなえといえば、イヤミスのイメージが強いが、本作は読んでいる途中で少しテイストが違うな、と気づいた。「推理してください!」のような大仕掛けもなく、主人公の独白に近いような印象を受けた。個人的には、姉を探すために、主人公と母親が色々策を弄している場面の描写が印象的であった。イヤミスが少し苦手という人でも、それなりに楽しめる小説ではないだろうか。もちろん、湊かなえのファンもいつもの作品とは違ったテイストを楽しむことができるため、おすすめだ。
 ミステリー小説は大体がネタバレになってしまうため、どこまでを書くべきかわからず、こういう書きぶりになってしまう。どうにかしたい。

2.伊坂幸太郎『シーソーモンスター』(中公文庫)

 8人の作家が「海族と山族の対立構造を描く」などの3つのルールに従って、古代から未来までの日本を描く「螺旋プロジェクト」という取り組みがある。本作はその中の1冊だ。
 本作は「シーソーモンスター」と「スピンモンスター」の全二篇からなる。それぞれのあらすじを紹介すると、「シーソーモンスター」は昭和後期が舞台で、元諜報員の妻・宮古と姑・セツの争いを中心に物語が描かれる。一方、「スピンモンスター」は近未来が舞台で、交通事故で家族を失った配達人の水戸が、手紙の配達途中、ある事件に巻き込まれ、因縁の相手である檜山に追われるというあらすじだ。
 両方の作品が単体でも十分に成立しているクオリティにもかかわらず、さらにそれらの世界観を繋げるために、共通のルールで描かれているという点が圧巻である。「スピンモンスター」を読んでいる途中に、「シーソーモンスター」との共通点を何個か見つけて1人で楽しくなっていた。さらに、共通のルールとして課している「海族と山族の対立構造を描く」というルールは、両作品で十分すぎるほど機能している。また、両作品で張られた要素が他の作家の作品に登場すると思うと、これ以外の作品も読みたくなる。このアイデア、思いついた人に賞をあげたい気分だ。
 改めて思ったことは、伊坂幸太郎の作品の登場人物はドラマ向きであるということだ。彼らの挙動がありありと想像できる。実写化を想定しているわけではないであろうが、そう思うくらい、主人公たちがいきいきとしているのだ。「スピンモンスター」はちょっと『火星に住むつもりかい?』の雰囲気を感じ取った。

3.西條奈加『まるまるの毬』(講談社文庫)

 この小説の存在を知ったのは、高校の校内模試の現代文だ。問題文として出題され、その時からずっと読みたいと漠然と思っていたが、買う機会がなく、知らず知らずここまで持ち越してしまった。その間に直木賞も受賞していた。舞台は江戸、南星屋という和菓子屋を切り盛りする治兵衛、娘のお永、孫娘のお君を中心に描かれる。
 1つのエピソードに対して、1つの和菓子が重要なアイテムとして登場する形で物語は進む。描かれる和菓子それぞれが魅力的で、実際にこの店があったら、私は毎日通っていただろう。そして、各エピソードが1つの短編として機能しながら、全体を通すと1つの物語として完成されている。治兵衛が和菓子職人を目指すきっかけになる出来事が描かれた「大鶉」の章は、「時代小説はこれだよ!これだよ!」と脳内で勝手に絶賛していた。
 ちなみに、校内模試で抜粋されていた文章は最終章のほぼ最後の方で、「改めて読んでみるとそこそこのネタバレでは?」と当時の先生に詰め寄りたくなる(嘘)。当時、この小説を面白そう、と思った私の感性に拍手で、それと出会わせてくれた先生にも感謝である。時代小説は大体面白い(主観)ので、これからもたくさん読みたい。

 まだ、読んでない小説あるから、くれぐれも新しく本を買うなよ(自戒)。

#読書 #小説


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