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備忘録。10

 後輩に「高校生の時に西尾維新とかを読んだことある人だと思ってました」と言われた。別に避けているわけではないが、どういうわけか読書人生の中で通っていない有名な作品が割とある。西尾維新は一冊も読んだことがなく(ガッキーの掟上今日子は見た)、米澤穂信は『氷菓』を読んだことがなく、原田マハは美術小説をスルーして、『本日は、お日柄もよく』しか読んだことがない。近いうちに必ず読みます。

1.千早茜『男ともだち』(文春文庫)

 昨年のM-1グランプリで、「男女の友情は成立するか」をテーマに漫才をしたお笑いコンビがいたな、と思いつつ。主人公の神名は、関係が冷え切った恋人と同棲関係を続けながら、イラストレーターの仕事を続けている。時には乱暴な態度の愛人と逢瀬を重ねる日々。ある日、大学の先輩であったハセオと再会…という筋書き。タイトルの「男ともだち」とは、ズバリ「ハセオ」のことを指しているとして、神名とハセオの関係が最終的にどうなるかは実際に読んで確かめてみてほしい。
 この小説の肝は、神名の性格にあると個人的に思っている。現在の関係が冷え切っていると理解しているのに恋人と別れない、愛人との不倫関係に結局流されてしまうといった彼女の性格が、単純な人の心理を描いた作品に奥行きを与えているのではないかと思う。傍から見ると、神名はクズということらしいが、読んでいる時はそれが気にならないほどに物語の世界観に引き込まれていた。個人的な推しポイントは、京都の街中が舞台として描かれていることである。舞台の1つとなる河原町とイラストレーターの組み合わせがかなり合っているということに気づいた。
 この後に『しろがねの葉』も読んだ。時代小説ということで、今までの作風と随分変わるのかと思っていたが、作品の軸には女性の強さがしっかりと描かれており、かなり好きな作品だった。ただ暗いだけではない間歩の描写が絶妙。

2.小野不由美『残穢』(新潮文庫)

 ホラー小説を読んだことが記憶の限りない。本作は、小説家の主人公が読者の体験談から、あるマンションで起こった怪奇事件の謎を探るという筋書きだ。謎解きの要素は特になく、ルポルタージュ的で私小説のような作品だ。
 本作では、何かが迫って来る描写や何かが害を与えるといったホラー映画の王道に当たる描写がほとんどない。言わば、「何もない」ということが本作の特徴ではないかと思う。事実の積み重ねが次々と恐怖心を煽り立てる。私は本作から、日本的ホラーの真髄を掴み取ったような気がする。人を怖がらせる仕掛けではなく、歴史の重みで怖がらせる。シンプルではあるが、作者の腕次第で傑作にも駄作にもなる可能性を秘めている。個人的には、物語の舞台であるマンションのその後、数十年先の未来が気になった。未来も恐怖は残り続けているのであろうか。

3.『小説新潮 2023年03月号』

 雑誌ではあるが、小説は掲載されているので紹介しても問題ないであろう。「SNSのある時代」というテーマの下、本雑誌には7人の作家による読み切りが掲載されている。住野よる、朝倉秋成といった若者を描くことに定評のある作家の名前が表紙にあったので、とりあえず読むことにした。最初は「面白くない作品があれば、全部読まなくていいや」と適当なことを考えていたが、結局、7人の作品を全部読んだ。率直に言うと、面白かった。
 住野よるの「滅亡型サボタージュ」は、世界の滅亡を信じる主人公が視聴者とやり取りしながら、適当に生配信する様子を描いた作品だ。住野よるの描写の持ち味である若者の緩さが短編でも存分に発揮されており、非常に好みな作品だった。随分前から、住野よるの新作を読みたいと思っているのに、一向に買っていないことを恥じた。早く買う。
 浅倉秋成の『かわうそをかぶる』の主人公はVtuberである。現代すぎる。Vtuberの時の顔とそうでない時の顔、いわゆるオンとオフが描かれており、俳優や歌手といった芸能人やYouTuberのオンとオフとの違いを探しながら読んでみるのも楽しい。
 個人的に好きだった作品は、大前粟生の『まぶしさと悪意』である。TikTok的なアプリの投稿が盛んな高校のインフルエンサーである女子高生が突如、SNSの更新をやめた。彼女が更新をやめた理由について、女性教師が探るという展開だ。SNSの良い所と悪い所が全部詰め込まれたような作品だった。現在進行形で『スマホ脳』を読んでいるが、本当にデジタル機器に依存しすぎるとよくない。デジタルデトックスしたい。
 他の4作品も面白かったので是非。

 微妙に積読が減っていないような気がする。間違いなく減ってはいるが…。

#読書 #小説

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