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孔雀の花火 フェイジョア

フェイジョアが咲いている

懐かしい 懐かしい花が咲いていたその病院の植え込みに近寄る

針を刺した乳房から滲んだ血の色に似てるなとギュッと痛む胸を押さえた

庭の真ん中に植えられていたフェイジョアの木に花が咲いているのを見つけた子供の時の心を思い出した

果実は緑色だったはずなんだけどとフェイジョアを植えてくれた父親を思い出したら痛む胸が余計にチクリと痛んだ

フェイジョアもさくらんぼも桃もナツメもなくなって水仙もアイリスもなくなって空っぽの庭にむき出しの赤い土に灰色のコンクリートが打たれていく

好きな場所が好きな花がなくなってしまった悲しい私とは裏腹の母の笑顔に戸惑いながら

紫陽花もなくなって寂しくなった庭に新しい母の部屋が作られた

切り倒されたり掘りあげられたり私が好きな木は以前のうちにも置き去りの上にいつの間にか切り倒されていた

ママお花好きなのは嘘なの?訊けなかった

小さな私はダメ 切らないでやめてと泣いた

マルメロも無花果も私には宝だったのに

雨が降っている
天の神様の涙が肩にポツリポツリ落ちてくる

そしてもっと小さな頃

雨の土色の匂いに混ざり記憶の断片が鮮やかに甦る

雨が 好き 雨は嫌なことを洗い流してくれるから雨は好き

玄関で膝を抱えているエプロンの後ろ姿がつぶやいていた

あの科白は私に放たれたのはわかっていた

ハレルヤ 耳に絡み付く雨音と母の声

嫌いよ雨なんか 雨がやんだらまた今度はあなたが泣いて私のおうちはどしゃ降りだわ

耳を塞いで台所に行く

カラカラとすっかり水がなくなったヤカンが騒いでいる

火をとめて黙って私は泣いた

小さな私はなんにもできなかった

だけど フェイジョアの花はこう言って笑う

今こうしてあなたは生きてる その胸の傷の痛みはあなたが生きてるから また おいでね 身がついた頃また会いにきてね 毎年 見にきてね

足元にノカンゾウ

カメラを閉じて傘を開きもせず私も神様と涙を流している舗道の黄昏

痛っ つい口に出してしまう

痛いのは乳房なのか心なのか

わからない

スカートを直して立ち上がりながらフェイジョアをも一度見上げてから腐った気持ちは申し訳なさに変わっていったある日の黄昏

ゆー。

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