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ドイツ語の慣用句「空の壺から話す」の意味とは?!

こんにちは、にかです。今日は変わったドイツ語の熟語の話をします。ドイツ語を学んでいなくても読めるので、ご安心ください。

Hafenとは

突然ですが、ドイツ語で「港」のことを、Hafen(ハーフェン)と言います。ドイツ語熟語辞典を読んでいたところ、3つの面白い熟語を見つけました。

これを大雑把に日本語に訳すと、以下のようになります。

Hafen:
結婚の港に向かう...誰かと結婚したいと思うこと。
例「結婚の港がすぐに近づき、やがて2人の子供が生まれたのも不思議ではない。

結婚の港に着陸する...結婚する。
例「長い年月を経て、彼はついに結婚の港に着陸した。」/ 「彼女は独り身を愛しており、結婚の港に着陸することを急がなかった。」

最後の港に入港する...死ぬ。
例「彼は自分が重病で、もうすぐ最後の港に入ることを知っていた。」

日本語で書かれたドイツ語の辞書「独和大辞典」を見てみても、この三つの熟語以外は特に見当たりません。

つまり、ドイツ語の「港」には、結婚というある種の人生の転換期、新たな生活のスタートを表すと共に、人生の終焉たる死をも意味する場合がある、ということがわかります。

ではこれらの熟語はどれくらいの知名度を誇るのでしょうか?
今回は僕のドイツ語母語話者のお友達4人に、②、③の熟語について聞いてみました。

Aくん

↑1人目は日本語の上手なAくん。フランクフルト在住です。どうやら二つとも知っている模様。ただ古い表現のようですね。

Bくん

↑2人目も日本語の上手なBくん。彼は今東京にいます。「死ぬ」の方はなんとなくわかるけど、「結婚する」の方は聞いたことがないようです。

Cさん

↑3人目はスイス在住のお友達Cさん(真ん中の赤く塗りつぶした部分は関係ない話をしています)。
僕のドイツ語はなんだかちぐはぐな感じはしますが気にせず...
『どっちもあんまり聞いたことないな、特に最初の表現(「結婚する」の方)は今まで一回も聞いたことがないと思う!』との返信が来ました。興味深いことに2人目のBくんと同じ回答です!

Dさん

↑4人目はフランクフルト在住のDさん。
『一番目の熟語(「結婚する」の方)だけ聞いたことあるよ。こういう熟語は多分ドイツの北の方で使われてるんじゃないかな、あっちは海があるからね。』とのこと。

と言うわけで、

二つとも知っている...1人
「結婚する」のみ知っている...1人
「死ぬ」のみ知っている...2人

と言う結果でした。

他の熟語を探してみた。

さて、これで記事が終わるのはちょっと味気ないので、もう少し深掘りするために、ずっと古い時代のものまで網羅しているドイツ語慣用句辞典も参照してみることにしました。
他にもHafenに関する慣用句はあるのでしょうか。

今回参照するのはこちら。知る人ぞ知る「ことわざ・慣用句大辞典縮小版」です。

全3冊の中の1冊目で、これだけで632ページもあるかなり大規模な慣用句辞典です。
これは僕ももちろん持っており、日本のお家にあるのですが、幸い手元にもPDF版があって助かりました。
縮小版なので、本来は確か12冊くらいの分量があったと思います(日国か)。いつかPDFで読みたいですね。

ただこの慣用句辞典は特に古いものに特化して編集されているので、今日も使われているものは少ないように思います。例えるなら、平安時代のことわざ辞典、みたいな感じでしょうか。(もちろん載っているもの全てが古い言い回しなわけではありません)

早速Hafenの項を見てみます。すると380ページあたりにありました!長いので二つの部分に分けて見ていきましょう。

なんだか色々書いてありますが、大体以下のようなことが書かれています。

Hafen
北ドイツでは「鍋、ガラス瓶」を意味する。
[慣用句]
① それは〜の鍋で料理されたわけではない:〜が誰かの手柄を横取りすること。
② 鍋から一つ一つ具材を取り出してお皿に盛り付けたい:不可能だが全員を満足させようとすること。
③ 全ての鍋にピッタリ当てはまる蓋を知っている:全ての質問に答えられること。また、全ての女性には適切な男性がいると言うこと。
④ 鍋の蓋を閉める:誰かを非難し、幻滅させる。
これに対して、「鍋の蓋を開けないといけない」(誰かに非難させないといけない、と言う意味?)ということもある。
⑤ 自分の鍋を見ろ!:自分の問題に集中してまずは自分のことを片付けろ!
⑥ 空っぽの鍋から話す:中身のないことをしゃべり、自分でも理解していないことを言う。1512年のMurnerと言う人の『Schelmenzunft』と言う本の第10章のタイトルにも使われており、挿絵もある。(⇩)同じような表現は、Grimmelshausenによる『奇妙な鳥の巣』にも見られる。

さて、なんとHafenには「ガラス瓶、鍋」と言う意味もあったようです。知りませんでした。

辞書にちゃんと載ってました


そしてこの鍋に関する慣用句が列挙されていました。

えー、急に港から遠ざかりましたね。。

ちなみに、これPDFから本文コピペできますし、はじめはDeepLやチャットGPTに翻訳させたのですが、全て「港」と訳すし全然意味不明な訳文出してくるしで、全く使い物になりませんでした。まだまだ翻訳業はAIに取って代わられることもなさそうですね。

仕方なくほぼ全文訳しましたが、意味不明な例文と古いドイツ語(日本語の古典みたい感じ)がそのまま引用されている部分は訳せないので端折りました。

まあ訳した慣用句もほぼ意味がわからないものが多いのですが。例えば⑤自分の鍋を見ろ!ってなんでしょうか。

あと本書は全く改行なしに延々と慣用句が並んでいるだけの、研究書としては素晴らしいのにレイアウトが残念な本(まあ辞書ってそう言うものですが)なので、一つ一つの慣用句に番号をつけて改行しました。ああ疲れた、、、深夜2時にやる作業じゃないですね。

で、⑥の「空っぽのから話す:中身のないことをしゃべり、自分でも理解していないことを言う。」という謎の慣用句の際に引用された、500年前くらいの本の挿絵がこちら。↓

空っぽの鍋から話す

まあ、、、何とも言えないですね。味はありますが。
空っぽの鍋、というかこれ、挿絵的にとかって訳した方がいいですね。空っぽの壺から話す。。。?

うーん、なんかこれに書いてあることよくわかんないな〜空の壺に捨てちゃえ、みたいなノリでしょうか。
「話す」って言うのがよく分かりませんけど、「(紙を)読む」と解釈するとまだ納得できそうです。空の壺から読む。どうでしょう。(reden=話す、語る、言う、喋る、ですが。)

ちなみに挿絵の上に書いてあるのは初期新高ドイツ語、と言う1350年から1650年ごろのドイツ語です。宗教改革で有名なルターはこの言語を使っていました。かなり現代ドイツ語に近いので、ほぼ知識のない僕でも何となく推測しながら読むことはできなくもない、そんな感じの言語です。

まとめ

さあ一体何の記事だったのか、ただ慣用句辞典を翻訳しているだけの記事になってしまいましたが、この慣用句辞典の一番の見どころは挿絵です。
今回は一枚引用したのみですが、こういう中世の挿絵とかってなかなか見る機会ないと思いますし、意味のわからない慣用句に想いを馳せるのも意外に楽しかったりします。挿絵から本文を読むのも楽しそうですね。

ちゃっかり終わりみたいなまとめになってしまいましたが、実はまだ半分Hafenに関するページは残っています(絶望)

しかし「結婚」「死」に関するこれ以上の熟語は見当たらず、さして面白い慣用句もありませんでした。したがって端折っても問題ないでしょう。

しかしなぜ「港」と「鍋」が同じ単語なのでしょうか。
こういうなんの関連もないように思えるものは、大抵こう言うのは別語源のものが偶然同じ綴りに合流した、ということが多いです。実際に辞書を見ると、「鍋」の意味は昔のドイツ語から、「港」は英語のhavenから来ているようです。(オランダ語でも港のことはhavenと言います)。

関係ない話ですが、ドイツ語にはGericht(ゲリヒト)と言う単語があります。
意味は二つあって、①食べ物 ②裁判 です。
な、なぜでしょうか...。
食べ物もかけまして、裁判と解きます。その心は、どちらもさばけるでしょう。と即座に言った友人がいましたが、そのおかげでGerichtの意味はずっと忘れられません。

気づいたらもう4千字近く書いてしまいました。長すぎる記事もよくないと思うので、ここら辺で終わりたいと思います。

読みたい人は読んでください(丸投げ)

ここまで見てくれてありがとうございました!

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