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レクイエム/カルドーゾ作曲

NHKの番組「名曲アルバム+(プラス)レクイエム/カルドーゾ作曲」の制作メモです。(2021年3/25放映)

選曲について

今回の「名曲アルバムプラス」は、コロナ禍の影響を受けて新規録音ができず、既存の「名曲アルバム」音源を用いての制作となりました。今までは音のミックスにまで要望をいれてもらい、音を聞き分けやすくしていましたが今回それができないため、最もシンプルで全ての音が聴き分けられるものを選曲しました。

選んだ曲、17世紀の作曲家マヌエル・カルドーゾによる「レクイエム」は無伴奏であり、最大6つの声だけで構成されています。また、基本的に同じリズムでハモる通常の合唱とは異なり、6声がバラバラに動くポリフォニー(多声音楽※)と呼ばれる形式をとります。

(※音楽史的には10世紀頃はじまってルネサンス、バロック期に隆盛をきわめた手法。ただしカルドーゾ作曲の多くは火災で消失したそうです)


表現について

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制作時の画像、6声を色分け

音程をあらわす

その6声の音程を、つながる筆記体の文字の高低で表しています。
実際の楽譜ではこうですが、

KYRIE Ⅱ (5曲め)

音程、音長さを表すMIDIの譜面に変換し、それを線でなぞっています。つまり線は半音単位で正確に上下しています。


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MIDI譜

つながる線=歌い手のひと息

一本の線は歌い手のひと息を表しています。
文字同士をつなぐ線は、音程のずり上がり(または下がり)を意味するわけではないですが、声を伸ばしながら次の音を目指す、歌うときの意識として表しています。また、実際に歌ってみると音を長く伸ばすタイプの歌では子音のはじまりではなく、母音の終わりで音程を変えはじめるような気がします。意識の上では、音程がジャンプせず繋がっているような。

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歌うときの音程意識、仮説。

伸びる母音に文字がのる

歌詞は典礼文であり、モーツァルトなど他の作曲家のレクイエムも同じ歌詞になります。1曲めのRequiemから始まる「入祭唱」以降の4曲は「キリエ(救憐唱)」と呼ばれるもので、Kyrie eleisonとChriste eleisonという短い歌詞しかありません。この言葉を長い旋律にのせると当然、母音をひたすら伸ばすことになります。

キィーーーリィーーーエーーーエーエーエーエー。

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Kyrie eleison

このとき、伸びた母音の部分は「ひとつの音符に、ひとつの文字」という合わせ方ができます。1画で描けて音にあわせやすいiやeの文字をあてられるのは、このように母音をやたらに伸ばす歌以外にありません。

ほかにも音を長く伸ばす歌は多いですが、例えば「さくらさくら」ならsa〜〜ku〜〜ra〜〜となり、二文字ずつが一音に対応することに。(日本語にすれば一文字ですけど)


このようにいわゆる「楽譜」ではないかたちで、音の上下動を表す表現はチベット音楽の記譜法や、声明(しょうみょう)などにも見られるものです。


https://www.openculture.com/2019/04/tibetan-musical-notation-is-beautiful.html


現代と合唱

長いパンデミックで未だできないことのひとつが「合唱」です。改めて、皆で歌う機会が生まれ、合唱が見直されるといいなと思います。また前述のように通常の合唱が全員で揃えるのに対して、ポリフォニー合唱は各人が別々のフレーズを歌います。なんとなく全体主義的ではない、権威的ではない感じ、多様性の時代と対応する部分があるかもしれません。みんな揃って、バラバラに歌いたい。

東京TDC賞2022

この記事を最初に書いたのは2021年3月でしたが、翌22年1月にタイポグラフィを扱うグラフィックデザインの賞、「東京TDC賞2022」のグランプリを受賞しました。2022年4月からggg(ギンザグラフィックギャラリー)にて展示をしています。また、授賞式の様子に加え、「TDC DAY」という受賞者によるプレゼンテーション+審査員コメントが公開されています。

コメントでは松本弦人氏に、図形楽譜やカリグラフィとの関係性、映像をグラフィックとして評価することについて言及いただいています。興味があればあわせてご覧ください。



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