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12月3日日曜日

今朝は5時に起きた。最低でも7時間以上は睡眠時間を確保しないと一日持たないので、逆算して、昨夜は21時半には布団に入った。それまでにシャワーも済ませて、スキンケアも入念に行い、髪もちゃんと乾かした。いつもこんなにテキパキと寝る支度ができたらいいのに。大抵は寝落ちしてシャワーは朝になり、乾かしきる時間がないまま家を出る時間になる。
最近、すぐに寝付けないことが多い。予定のある前の晩は、特に眠れない。昨日も寝入るのに苦労した。整体で、「背中が張ってると眠れなくなるのよ」と先生が言っていて、納得した。今日登る山は、先生もおすすめの山の一つだって言っていて、嬉しかった。時間があったので、背中まわりをストレッチでほぐしてから、朝食をとった。
日の出は朝6時半、7時前には家を出る。荷物も着るものも化粧も準備バッチリ、駅に向かう道中で綺麗な朝日が見られるかも。そう思っていたところに、待ち合わせている友人から連絡が入った。体調が悪く、登山はとてもできなさそうな状態なので、申し訳ないけど今日はリスケしたい。という内容だった。今日は天気もバッチリで、ものすごく楽しみにしていたけど、不思議と落ち込む気持ちは少しも湧かなかった。それは、彼女と私が適切な距離感で付き合えているからだと思った。気が合って楽しくて大好きだけど、お互いを拠り所にしていなくて、ちゃんと個と個でいられていて、それが心地よい。そういう関係性だから、予定が変更になっても、何も揺らがなかったのかな、と思う。でも、そういう相手としかもはや付き合いってないよな、大人になると。登山中に体調を崩すことにならなくて本当によかった、山は逃げないから、今日はゆっくり休んでね。そう思ったので、そう返事をした。
そこから少し悩んだけど、一人で出発することにした。元々予定していたコースは彼女と行くのにとっておいて、軽めのコースで行ってみるのはどうだろう。一人で登るの初めてでちょっと怖いし。うん。いいかもしれない。電車やバスを調べ直して、30分遅れて家を出た。私、今日ソロ登山デビューしちゃうんだ。お気に入りの真っ赤なウェアに合わせて、リップも赤を選んだ。最高の日曜日が始まった。

思ったより時間はかからず目的の駅についた。手袋ってなんですぐ落とすんだろう。ユニクロで買ったばかりの、今日初めて身につけた手袋を早速駅の中で片方なくして、心当たりのある場所に戻ると、おめかししたおばあちゃまが拾ってくださっていた。「それ私のです、ありがとうございます」と声を掛けると、私の格好を見るなり、「あら、今日はどこへ登るの?」と笑顔で聞いてくれた。おばあちゃまが92歳なこと、学生の時に初めて山に登ったこと、富士山はもちろんなんとかアルプスもなんちゃらアルプスだって登ったこと、富士山は見るに限るということ、などなど、たくさん話をしてくれて、最後に、「山を愛してあげてね」と言われた。素敵だなあ。私もおばあちゃまくらい歳を重ねたら、素敵な言葉をすっと選んで相手に投げかけてあげられるようになるんだろうか。今初めて会った人に、こんな風にチャーミングに笑いかけられるようになるんだろうか。その後、お互いに「行ってらっしゃい」をして別れた。なんて一人登山デビュー日和なんだろうと幸せな気持ちになった。

しかし、私はこの日山には登れなかった。遭難するどころか、登山口に辿り着くことさえできなかった。バスを間違えた。ていうかなんなら、駅も間違えてる。どうりで時間がかからないはずだ。事前に立てた計画は完璧だった。発着時間まですべて調べあげてあったのに。ただ、家を出る直前にコース変更をして、急いでアクセスを調べ直したために、そこでうっかりミスってしまったようなのだ。K駐車場、確かに私が目的地にしていたのはそこで、コースのスタート地点となるのもそこで、そこに着くように電車を検索したはずで、検索履歴にも間違えはなかった。だが、すべてはヤフー乗換案内アプリのせい。おそらく、アプリ上でヒットしない地点名で検索した際に、あいまい検索が適用され、似た名前のスポットに自動的に変換される仕様になっていたらしい。やられた。バスを降りて数分で違和感を感じた。同じバスに乗っていたソロ登山客らしい女性も、てっきり同じところで降りるんだと思っていたのに、そのまま降りずに行ってしまった。何より、山はまだまだ遠くに見えている。Googleマップで調べ直すと、本当のK駐車場からは14キロも離れた場所にいることがわかった。そしてさらに調査を進めると、K駐車場は、公共交通機関ではとても辿り着けない場所であることも分かった。
ヤフーのアプリに導かれるままに到着したのは、K駐車場ではなくその土地の市役所で、役所の前でしばらく立ち往生。K駐車場にはもう行けない。しかし、今から駅へ戻って、友人と行こうとしていたコースを電車で目指すとなると、ここからさらに2時間はかかる。スムーズに登って降りてもさらに3時間はかかる。すでに10時近くなっていたので、もう遅すぎる。しかしせっかく5時起きで、こんなに天気がよくて、ここまで来て、まっすぐ帰らないといけないのか。こんなにまわりに山が見えてるんだから、他の山なら今からでも行けるんじゃないのか。その場で必死に調べるが、やはり、交通手段が車でない限り、どこもアクセスは難しそうだった。
今日は帰ろう。
手前の駅に確か温泉があった。そこに寄るでもいいし。タオルは持っていないけど、売店で買えそうだというところまで調べた。一人登山は私には早すぎたのだ。ああ本当に、こんな遠くへ来て、何の土地勘もなくて、スマホがなかったらどうしていたのだろう。駅まで戻り、バス酔いが治まるのを待ちながら、数駅先に年の離れた友人が住んでいることを思い出して、ダメ元で連絡しておく。たぶん日曜はお仕事だろうけど、近くに来たことだけ伝えておこう。

なんとその15分後に、友人と合流できた。今日は休みで、ちょうど駅前で買い物をしていたところだったという。こんなにタイミングがいいことってあるんだろうか。この人とは、お互いに会おうとしていたにも関わらず、タイミングを外し続けて4年くらい会えなかったこともあるのに。タイミングの神様が今日は私に味方している。本当に、友は各地に作っておくに限る。そのままソッコー「知り合いのお店」に連れて行かれてお昼をご馳走になり、ビールも日本酒もいただいて、年の離れた友人は会計だけ済ませてひと足先にそそくさと消えた。それから、特に予定もなかったので、近くの公園で働いている友人の彼女さんに会いに行くことにした。なんで同じ日にカップルそれぞれにバラバラに会ってんだろうと可笑しかった。展望台までのチケットもちゃっかりサービスしてもらってしまって、遠足を満喫した。二人のおかげで楽しい日曜日になった。今日は登らぬが吉だったってことに違いない。しかも今日、交通費の他には一円も出してない。縁に助けられている。私も誰かに返したい。

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