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小説家になりたかった頃(ご挨拶)

 第一志望の大学に落ちて別の大学に行くことに決まった瞬間、道が開けたような気持ちになったのを今でも覚えている。ずっと一つの大学にだけ憧れて勉強もそれなりにしていたからとても悲しかったはずなのだけれど、行くことになった大学の名前や学部を改めて読み直すと「さあ、逃げずに文章と向き合いなさい」と言われているような気がしたのだった。

 中学や高校で過ごしている間、一貫して自分が求めていたのは「特別」であることだった。何もない私は芸術という空間に凡庸さを抜け出せるのではないかと期待をしていた。絵を描いたり音楽をやったり。普通のなかで見る分にはそれなりに出来た方だったけれど、どちらも本気の世界に飛び込むまでもなく入口に立とうとするだけで力のなさを思い知った。言葉については色々と思いつくままに詩でも論文でも書いていたのだけれど、誰もが日々口にしている言葉に「特別」は宿らない気がして、そして自分は物語を作るまでの言葉を持ち合わせていない気がして、目を逸らしていた。

 そんな私に、今では多くの作家を輩出している場所の名前が示されたので、いい加減にこちらを見るよう諭されたように思えたのだ。

 その春、私は文芸のサークルに入り小説も幾つか書いた。驚きだった。自分がきちんと最後まで物語を練り上げられるだなんて、昔には考え付かないことだった。やってみようと思うと幾らでも考えが浮かんでくる。後には役者をやりたい友人や美術をやっている友人と一緒に、小説を映画にしたこともあった。新人賞にも応募をしていた。四年間。生まれて初めて小説を書くことに臨めた時期だった。

 就職をして、それでも小説を書くことに寄り添って生きられたならと淡く願っていた。けれど、それは私にとってとても難しいことだった。一日の大半は仕事のことでいっぱいで、そこから離れた時にはとにかく頭をからっぽにしたくなった。自分で何かを考える余裕や材料が、すっかりなくなってしまった。頭の中でぐるぐる巡っている考え事などは言葉にしてそのまま掃き出してしまえることは嬉しかったけれど、それを物語の形にすることは努力してでもできなくなってしまった。

 そんな数年を経て、久しぶりに何か小説を書こうと暫く試みたものの、なかなかこれが上手くいかない。言いたい事は沢山あるけれど、それは言葉のままで充分に伝えきれてしまい、物語という形を取らなくても良くなってしまった。やっぱり自分には小説が書けない。悲しいけれど、取り合えず今はこれが事実だ。

 それでも何か書くことから離れたくない。あの時すがったものに今でも何とかしてぶら下がり続けたい。そんな思いで始めたのがこちらのnoteです。かっこわるくしみったれた自己満足で綴っていきます。

#自己紹介 #日記 #エッセイ

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