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しろいろの街の、その骨の体温の 村田沙耶香

思い出したくなかったことを全て思い出してしまった。

多感すぎたあの頃、特に話したこともないような人から急に嫌われ、負けないように自分も誰かを嫌った。

すれ違いざまに嫌なことを言われるのが怖くてもちろん学校も行きたくなかったけど、行かなくて親に心配される勇気も、少しでも教室の噂になる勇気も待ち合わせていなかった。毎晩お風呂の中で泣きそうになりながら、好きなバンドを大音量で耳の中に流し、ただ時が過ぎることをひたすらに願った。学校では周りの友達に、別の人の悪口を言うことで、何とか自尊心を保っていた。

今思えば、人生をたった10数年しか生きてなかったあの頃、この先もずっとこんなことがあるのだろうかと、漠然と構えていた気がする。大丈夫だよと抱きしめてあげたい。高校は楽しいよ。そして今では、よく知らない人に嫌われようと何にも思わないほど温かい思い出と大好きな人を大切にすることに忙しくしてる。

誰かは誰かの悪者で、誰かにとっては恩人だったりする。あの頃を考えるといつもそう思う。思い出すにも考えるにも辛すぎる思い出だ。恨むよりも反省してる。

この物語の登場人物の誰かに、自分を投影することはなかったけど、私がいた世界もまさにあのままで、読むのが辛いというよりは、ちょっと救われたような気がした。俯瞰して見るとこんなにも滑稽で無意味なものなんだなと改めてちゃんと思えたから。そして、同じものを経験してきた人がここにいるんだろうなと思えたから。

自分の価値観で世界を見ることを美しいと言ってくれてありがとう。綺麗だと言ってくれてありがとう。縛られていたものから解き放たれた時、今なら何でもできると自由になる瞬間がある。その時になって初めて、自分の目で世の中を見れるようになる。

美しいものを美しいと、自分の目で感じられた時、生きていて良かったと思う。大袈裟じゃなくて、小さなそれを、毎日じゃなくていいから積み重ねていきたい。

そして、自分の言葉で、行動で、波紋が広がることを恐れないでいきたい。ちゃんと伝えたい。俯瞰したフリをしないで、斜に構えないで、自分の力で水面を動かす。いずれ誰も聞いてくれなくなる、見てくれなくなる、それまで逃げないで、そんなあなたはちゃんと美しいから、この本はそう言ってくれている気がする。

白い街で、空虚な世界で、成長途中なこの街と私にも、伊吹みたいに真っ直ぐな目で見つめてくれる人がいる。純粋で無垢で、みんなが憧れる希望のような彼は、私とは全く違う目線で世界を見てる。狭い世界の価値観が分かってないんじゃなく、彼はちゃんと自分の目で見ていたのだ。

ちゃんと自分になろう。揺るぎないものを持つのは難しいかもしれない。周りの価値観や環境に影響されるのはやむを得ないかもしれない。でも、自分の目で見よう、自分の言葉で伝えよう。あなたはあなたでしかないのだから。

あるような言葉を最後に並べてしまったが、心に沁みた度合いは凄かった。えげつない思い出をいっぱい思い出したけど、私はこの本を心の本棚に大切に並べました。

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