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笑いにくい笑い話28 靴下をどうぞ


 ダウン症と自閉症などの発達障害は、もしかすると正反対なところがある。
 夫は、ダウン症のある娘と出会って24年ではあるが、単身赴任もあり、、同居していた時期も上の子を含めて子育てに協力的とは全く言えない。子どものことも障がいのこともあまり知らない。
 定年退職を機に、福祉施設、B型支援の施設でアルバイトを始めた。面接で、娘がダウン症です!と言えば、これはコレでスキルとして認められたのか、あっけなく採用になった。採用する方も採用する方だ。人手不足なのだろうけど。
 働き始めてすぐ、心が折れた。その施設には娘のような知的障害が重い人はいない。自閉症スペクトラム、精神障害を持つ、しっかりした言葉を話し主張をする利用者である。スタッフと利用者とは言うものの、量や責任は違うがやる作業はほぼ一緒。使えない老人として働き始めた夫は、利用者さんに暴言で参っていた。「辞めたい」と抜かしたが、年金生活をするような大した能力も無い老人に、他に就職口はないと、その利用者以上に家でいじめ抜いた。
 ダウン症のある人が全部そうではないが、強烈なこだわりはない。逆に、自閉症スペクトラムや精神障害を持つ人の中には、強烈なこだわりがあり、それと違う事が起きたりされたりすると、激怒することがある。障がいについて知っているという思いが、逆に失敗に繋がった。
「娘とは逆なのだ」
と教える。ダウン症のある子を持っていて、患者会や療育施設、養護学校(特別支援学校)などで見ていると、そしてちゃんと育児していると、逆の人が居るなと言うことに気がつく。
 娘は発語も言語理解も全くないのだが、人の気持ちを察したり理解したり(それが間違っていることもよくある)することができる。
 夫にそれを教える実験をした。
 娘は、靴下やタオルを常に手に持ち、結んで遊んでいる。(靴下のゴムがボロボロになって困っている)これをひったくるように取り上げた。娘は別になんともない。しばらくしたら別の靴下を探し出す。もしこれをこだわりの強い自閉症スペクトラムのある人にしたら、パニックを起こすかも知れない。
 「だから、娘とは違うのよ。むしろ逆」
と説明しながら、ひったくることを三度したら、三度目は娘が予測して自分から私に靴下を渡してきた。
「ほらね、この子は私が靴下がほしいを思っちゃったのよ。でも言葉であなたに説明していることは何にも理解していない」 
 間もなくアルバイト1周年。夫もちょっとは成長しただろうか。老化がそれを上回ってはいるが。

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