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📚第165回芥川賞の選評ごっこ

はじめに友人の誘いで、芥川賞の受賞作品発表の前に候補作を全て読み、選評ごっこをすることになった。思えば、これまで○○賞が決め手となって本を手に取ったことは一度もなかった。読む本を決める時には、好きな作者の作品を網羅する・好きな作者が好きな作者や作品を網羅する・本屋で冒頭数ページを立ち読みして気に入ったら読むの3つが主であった。意識的に嘉賞された作品を避けていたわけでもなく、好きな作品の中で何らかの賞に与った作品もいくつかあった。これらの作品を選ぶ時、恐らく帯文に〇〇賞受賞の文

    • 鳥頭に金木犀の香り

      心許ない「金木犀の香りがするー」 幾度となくこの言葉を耳にして、その度に自分の記憶を掌る機能には何か欠陥があるのではないかと心許なくなる。 丁度この季節、忌々しい寒さが私の身体を襲い始める時分にその香りは街中に散らばる。 金木犀江戸時代に中国から齎された常緑樹の挿し木は、今や本州の北端から九州の南端まで分布するポピュラーな植物となった。自然に植生は無いということを知って、ロマンチックな気配が少々削がれてしまう。人為的な香りと思ってしまうと、多くの香水が持ついやらしさを纏っ

      • 🎸イヤホンで耳も心も痛い

        とりとめもないこと2021年8月現在、ライブにもフェスにもセッションバーにも行けず、鬱屈とした気持ちをイヤホンから流れてくる音楽で慰めるしか無い日々が続いている。何よりも失われたのはセレンディピティだ。誘われたライブで聴く、コピーするために聴く、そんな風に自分以外の意思が働いたり、偶然によって齎される音楽との出会いがめっきり無くなってしまった。 「バンドを全然聴かなくなった。」 大学時代の友人と顔を合わせればそんな言葉が異口同音に繰り返される。社会人になったばかりの頃は、あ

        • 🐒動物と共に生きることー『愛猿記』(子母澤寛)を読んで

          猿を飼った小説家幕末を描いた時代小説で知られる作家、子母澤寛の動物たちとの暮らしを綴った随筆。 表題の通り、作者は数々飼育してきた動物の中でも、特別に猿を愛していた。生涯で3匹の猿と共に暮らし、その他にも数種類の犬や果ては野生の鴉まで飼育した。そんな動物たちとの愛おしくも切ない物語からは、不思議と剥き出しの“人の心”が感じられる。 動物という他者を媒介することで浮かび上がる人間の姿作中では、主に作者や其の家族、来客や獣医などの人々と動物たちとの触れ合いが短編のエピソードとし

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        📚第165回芥川賞の選評ごっこ

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          🍂パンフレットに載らない史実ー金閣寺と三島由紀夫ー

          きっかけ金閣寺を見に京都を訪れた。三島由紀夫の『金閣寺』を昨年、高校一年生の時から9年ぶりに再読し、今年の5月には平野啓一郎による『NHK 100分de名著 三島由紀夫 金閣寺』が放映、刊行されてそれを読んだことがきっかけだった。 最近好きになった作家のルーツを辿ると昔読んだ本や作家に行き着くことを知り、それらをきちんと読み直そうという試みの一環として、『金閣寺』を再読した。名著と呼ばれる作品を片っ端から読もうと意気込んでいた高校時代(実際は文学史の教科書に載っている内でタイ

          🍂パンフレットに載らない史実ー金閣寺と三島由紀夫ー

          【小説】『Armー哀れみー』②

          少年車が走り去った後も暫く、少年はその場にじっと横たわっていた。土埃が鼻腔を擽る為、くしゃみを我慢するのに必死だった。カメラで撮られている間は、まだ事故は終わっていない。動かなくなった人間よりも、“動けないでいる”人間の方がよっぽど不穏な匂い、死の匂いを感じさせるのだと彼は知っていた。だからこのまま朽ち果ててしまうような悲壮感がカメラの向こう側の人たちに伝わる迄は、動けない姿を演じ続ける。そもそも、本当に死んでしまったらpointは何処にも残らずに塵となって消えてしまう。 カ

          【小説】『Armー哀れみー』②

          【小説】『Armー哀れみー』①

          運転手ー暑い。去年の4月は35℃とか、もう少しマシだった気がする。今日は日差しがきつい分、余計に暑さを感じる。車内にいるとはいえ、旧式のトラックだからエアコンの風も生温いし、先程の荷降ろしに20分もかかったせいで汗びっしょりだ。服が身体に張り付いて気持ちが悪くてたまらない。次の現場が終わったら、ガソリンを入れるついでに一度シャワーと着替えを済ませよう。なんでったって、まだ4月にサクラの花を見ることができた頃に走っていた旧式の車はこんなにすぐエネルギー切れになるのか。苛立ちから

          【小説】『Armー哀れみー』①

          「コキュ」

          cuckold : コキュ《名》<仏> (cocu)コキュー。元気をなくした男。特に、妻を他人に寝取られた男。奪われた者の象徴。 『水いらず』(サルトル)のアンリー、『マノン・レスコー』(アヴェ・プレヴォ)のジェロンテのように、愛する人、ものを奪われた間抜けな男は数多くの文学作品に登場する。 持たざる者と奪われた者持たざる者には他者から共感される余地がない。”持つこと”を知り得ないからだ。だからこそべたべたした感じがなく、他者としてフェアに接しやすいとも言える。奪われた者

          「コキュ」

          「背中から?」

          背中から飛び降りると、死に向かうよりも、生から遠ざかるという感覚になるのかもしれない。 飛び降りたい多くの理由は、言い換えれば今の自分から遠ざかりたいということだと思う。 其れでも死ぬのは怖いから、近づいてくる死と地面よりも、遠ざかっていく自分と世界を見つめながら死んでいきたい。 もしその姿を見たら、その人は最期まで臆病でずるいままだったなんて考えてしまいそう。 救いの手は背中から飛んだ方が差し伸べ易い。 救われたかったのかもしれないって、余計に勘繰ってしまう。 で

          「背中から?」

          📕「武器になる哲学」(山口周)を読んで

          概要キュレーター、企業コンサルタントの著者が、"人・組織・社会・思想"の領域における哲学・思想のキーコンセプトを50個紹介する。 哲学・思想が必要な理由①物事を”あるがままに”洞察する力を身につける ②批判的思考を身につける ③アジェンダ(課題)を設定できるようになる ③”真・善・美”に従い、悪徳による悲劇を起こさないようにする 哲学入門との違い①時間軸に従っていない (古代ギリシャ〜近代のような流れではない) ②著者が思う”有用性”に基づいて選定、紹介している ③哲学以

          📕「武器になる哲学」(山口周)を読んで

          「逃走」

          自由からの逃走エーリッヒ・フロムは『自由からの逃走』の中で、「自由とは耐え難い孤独と痛烈な責任をともなうものである」と述べた。 青春は逃走の歴史小学校6年生、中学3年生、高校3年生、大学4年生。此等から連想されるのは卒業や別れ、そして進学といった言葉だ。悩ましい十代の頃、進学は死の匂いばかりを感じさせた。ナイーブで過剰な想像力は、”新しいルールと人間関係、教科書の山と監獄のような教室が私を苦しめ、死に至らしめる”という悲観的なイメージばかりを植え付けた。 心も身体も守られる

          「逃走」

          「第二の性」

          ボーヴォワールの「第二の性」「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」(ボーヴォワール) ”無自覚・無批判”であるという悪ジェンダーバイアスの最大の危険は、「自分はそのようなバイアスに囚われていない」という自己欺瞞に陥ることらしい。世間で喧伝されているジェンダーに関わる問題について、「世界ではこういうことに苦しんで、それを解決しようとしている人がいるらしい。」という受容のあとに、「自分はそんな偏った考えをもっていないから、世界もそうなるべきだ」という表面的な同調に終わって

          「第二の性」

          「身体を見つめてはいけない」

          「身体」について考える時、先ずは自分の身体を具に見つめる。 (痩せ細っている。鎖骨が目立つ位浮き出ている。目鼻や口が小さく、顔に彫りがない。背が低い。) そして他者の身体に目が移る。良くも悪くも差異が浮き出てくる。 (あの人は背が高い。あの人は瞳が大きい。あの人は脚が太い。あの人は首が細い。) 其の内に差異が意味を持ち、意味が偶像を形作る。 (瞳が大きい人は意思が強そう。身体が大きい人は態度が大きそう。首が太い人は神経も図太そう) 偶像は或る小さな欲望を生み出す。 (他者にな

          「身体を見つめてはいけない」

          「読書会」

          十代のライフワークは、祖母との読書会だった。 1冊読み終える毎に、その本を読んだことがない祖母の為に読書感想文を伝える。 きっかけは小学生の夏休みに書き上げた読書感想文を祖母に読んでもらったことだった。 祖母は、「あらすじを書きつけただけじゃダメだ。」とか、「自分の感想をもっと書きなさい。」とか、教師が言う決まり文句を一言も発さず、ただ「面白かった」と言った。 この時から私には、本を読み、その感想を思うままに祖母に伝えるという仕事が与えられた。 読書会とは言ったが、課題

          「読書会」

          「人から買う」

          洋服は殆ど馴染みの店で買う。 もっと言ってしまえば、馴染みの人から買う。 ものを買う時、沢山の選択が伴う。選択とは、自分の中にある様々な価値観との突き合わせだ。予算やタイミングといった外的な制限も考慮することになるが、選択に影響を与える比重としては価値観の部分が大きい。 洋服の選択に関わる価値観ならば、意匠・用途・身体へのフィット・ストーリー・希少性などがある。 そして私にとって重要なのが、“誰から買うか”という価値観である。 此れは突き詰めれば、UXやCX・コト売りと

          「人から買う」

          「歪な境界線」

          “歪であることの正しさ” 整然・均質といった性質は、偶発性や人間性を退け、恣意性や人工性を想起させる。 境界線が歪であることは、人としての正しさに結びつく。 “境界線”は自己の定義と他者の間に引かれる。 ここで言う“他者”とは、レヴィナスに依るところの“わかり合えない者・理解できない者”を示す。他人や人間以外の動物、自然や広くは思想すらも内包される。 境界線の内側は、他者でありながらも自己の定義と重複し、端的にいえば“理解できる”領域ということになる。 好きなものや場所、

          「歪な境界線」