文化継承と投企 ポストジェンダー論はコレだ

生命はこの世界に生を受けた、あるいは投げ込まれたともいえるが、時点で「自分」として生きることを運命付けられる。

ヒトは生きていくうちに自分が自分であるという事実に折り合いをつけて生きていく。それは人類が社会生活を送るうえで欠かせないことである。万人が自分が自分であることを認めなければ自分や家族のために働いたりコミュニティのルールを守ったりしないからである。

自分が自分ではないという実感は精神病や精神的違和だと語られる。自分の身体的特徴、性別、環境が自分の望むものではないという感覚、あるいは自分の存在自信が信じられないという感覚。すべてが生活を送る上での障害たりえると現代社会では認識されているのである。

しかし今一度ゆっくりと考えてほしい。空の上には宇宙が広がり、砂や岩やガスが引き合ったり離し合ったりしてぐるぐる回っている。ミクロな世界ではひとつひとつの原子の周りを電子がぐるぐる回っている。それらの世界には人間社会にあるような感情、意味、価値、概念、そういったものは一つもなさそうである。そんな世界に急に誕生した自我は、とりあえず周りの同じような個体と同じように動いて生活することを学んできた。家族があり社会があり自分がいる。道徳や責任感も身に染みてわかってきた。生は喜び死は悲しみ。明日も善い日になりますように、と。

いったいこれは何なんだ。誰が作って誰が回している世界なのか、自分はこの世界のなかで何をしているどんな役割の存在なのだろうか。一つも説明がなされないまま今日の日まで生きている。これは全人類の共通事項である。

考えても答えは出ないし毎日は忙しいし、そんな考えはやるだけ無駄だと頭の中から捨ててしまう人もいるだろう。というか「健全に」社会生活を送っている人たちはみんなこんな考えは等の昔に捨てているはずだ。

そしてアイデンティティを確立する。私は○○年○月○日に○○市○○町で生まれた○○という人間で、家族はだれだれで……

しかし世の中にはアイデンティティを確立しきれなかった人たちが一定数いる。自分の思い描く姿と自分の心と体に埋めようのないギャップがある人たちだ。どこでねじれてしまったのかはわからないが自分に対する違和は大きなストレスになり健全な社会生活を損なってしまう。

そこで既存の社会構造をすこしいじって違和のある人たちのストレスを軽減しましょうというのが現代社会の流れである。多かれ少なかれこのような社会構造のマイナーチェンジはこれからも起こっていくだろう。

ここで私に疑問が浮かんだ。想像の自分と実際の自分のギャップに苦しむ人がいるなら、人種や出生地に違和を感じる人はいないのだろうか、と。平たく言えば「私は本当は遊牧民だ」とか「私はパリで生まれたパリジャンのはずなのに」と思っている人がいないことにおかしさを感じている。

例えば日本の文化が好きになって日本に移住する外国人はこんにち相当数いるが、彼らが身体的特徴などを理由に日本の現地社会に溶け込めなかったとき、きっとこう思うだろう「私は日本に日本人として生まれたかった」と。その思いがあまりに強い場合「私は日本人として生まれる"はずだったのに"」と思う人間がいてもおかしくない。これは性的違和などとは根本的に違うのであろうか。

逆の側面から考えよう。「民族の歴史」という考え方がある。血縁、あるいは地縁を同じくする「民族」が背負っているとされる歴史である。「民族性」という言葉もある。彼らが備えているであろう人格の素質である。最初の話しに戻るが、我々人類は自分自身や自分が生きている環境について自分で望んでなったわけではない。ならばなぜ自分が○○人、○○族であるということをごくごく簡単に受け入れることができるのであろうか。

キリスト教の原罪はまだ理解ができる側面がある。我々はヒトとして生を受けた時点で罪を負っている。知らんがな。しかし、ヒトという生き物にはみな罪があるのだから私にも罪がある。これは仕方がないと思うだろう。

これが戦争犯罪などになると途端にわけがわからなくなる。「アメリカ人は日本に原爆を落としたことを悔いなければならない」これは?戦後生まれでもそうなの?アメリカ国内で生まれたらダメ?サモアやプエルトリコはどうする?あなたの家系が広島長崎に縁もゆかりもなかったとしても?

これに対する私の考えはこうだ:「ヒトはみな生まれた土地や自分の先祖が背負った歴史を放棄してよいし、任意の文化や歴史を継承してよい」だってしょせんみんな人類なんだから誰が何を放棄したって継いだって同じことだ。もちろん自分自身の犯した罪は自分自身で償わなくてはならないというルールは大前提として。

性的違和にかんして現代では急速な変化が起こった。これを自我と自身のギャップを埋めるための運動だととらえた場合、どこかのタイミングで文化継承についての問題が起こるだろう。それを見越して私はここに記しておく。以上。

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