見出し画像

12.31 大晦日

走れ、走れ、走れ。
時代が変わろうとしている。
2018年は、犬の耳を風になびかせながら、二本足でシャッターの降りた商店街を駆けた。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
もうあと二時間もせずに年が変わってしまうなんて。
2018年は、さすがは戌年。犬の如き速さで誰もいない道を駆け抜けていく。
しかし、これも戌年の所以か遊ぶのが好きで、年始早々に始めたゲームに気を取られあっという間に年が変わろうとしているのだ。
「チッ、あいつが来やがったあー!」
走りながら後ろを振り返ると、猪突猛進、足音を高らかに響かせながらすごい勢いで2019年が追いかけて来ている。
「待ーて待て待て待てぇーい!お前の時代はもう終わりだ!大人しく俺と交代しやがれ!」
亥年の2019年は、なぜか素肌にGジャンとGパンという、もう誰が見ても熱が溢れすぎているような出で立ちだ。明らかに暑苦しい。
2018年はといえば、実はお金がかかっているが全くそうは見えないお洒落ニート風という出で立ちなので見え方としてはどっこいではある。
「嫌だ!だってまだゲームクリアしてない!十二年後なんてもうセーブデータ消えてるよおー!」
キャンキャンと鳴きながら疾走する2018年と、大きな足音を鳴らしながら鼻息荒く直進する2019年の姿を見ている者はいない。
なぜなら今日は大晦日。
ここらの商店街を営む者は高齢者ばかりで、二日前から一斉に店を閉め、今頃コタツで紅白を観ながら船を漕いでいるところだからである。
耳が遠いのでテレビの音量もだいぶ大きくしているため、キャンキャン騒ぐ2018年の鳴き声も聞こえないというわけだ。
「それはお前が穴ばっかり掘ってアイテム探して物語を先に進めなかったからだろうが!」
「何故それを!」
「犬の習性くらいよく知っておるわ!」
ガッハッハ、と笑いGジャンをはためかせる2019年が怖すぎる。
2018年は、ならばと商店街を抜けた角をクイックターンした。
「お前の習性も、おれは知っているぞ!」
小回りのきく2018年と違って、2019年は真っ直ぐにしか走れない。
勢いよく住宅街の道を直進してどこかへ消えていった。
「行ったか…ハァハァ、もう、諦めておれにゲームをさせてくれよお!」
ワウワーウ!と遠吠えをすると、近所の犬たちが一斉に遠吠えを返してきた。
分かっている。あと二時間もないうちに、この体が消えてしまうことは。そして、もう十二年後までこの世界に存在しないことは。
「でも、諦めたくない」
2018年は震える膝に鞭打って、全速力で自分の住む安アパートへと戻った。
あと二時間近くもある。まだ、クリアは諦めない。
「せめて今年に悔いは残さない!」
2018年は目を血走らせながら、ゲーム機の電源を入れた。

12.31 大晦日
#小説 #大晦日 #さよなら2018 #まだ諦めない #JAM365 #日めくりノベル

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?