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11.21 フライドチキンの日・世界ハローデー

「お母さん、きょうはなんの日か知ってる?」
ぼくは、両手で口元を押さえながらくすくすと笑った。
お鍋を混ぜているお母さんのエプロンの蝶々結びが揺れる。
「もちろん、知ってますよ」
お母さんが、小さな白いお皿を持った。味見のための白いお皿だ。
「ねぇねぇ、なんの日?」
ぼくは、こっちを見ないでお鍋ばかりを気にしているお母さんに焦れて、ぴょんぴょん飛び跳ねた。
「もー、危ないから火の近くで跳ねないの。また後でね」
お母さんの優しい声が、すこしも優しく無いことを言うものだからぼくはしょんぼりして台所を出た。
「お母さんは、きょうがなんの日かなんてきっと忘れちゃったんだ。僕のことなんて嫌いになってしまったんだ」
ぼくは、星柄の羽毛ぶとんを頭までかぶって泣いているうちに眠ってしまった。
「ぷーちゃん、ぷーちゃんどこ?」
遠くからお母さんの声が聞こえる。でも、ぼくは絶対自分から出ていったりしない。頬を膨らませて、涙をぬぐった。
「ぷーちゃん、みーつけた」
お母さんが、ゆっくりと布団をめくった。ぼくは、まだ怒っていたのでお母さんを見ない。
「ぷーちゃん、ご飯の用意できたよ」
お母さんにうりうりと頭を撫でられて、頬にキスを落とされると、ぼくの怒りはしゅるしゅると消えていった。お母さんを、愛しているからだ。
「もう、仕方ないなぁ」
ぼくも男だから、そろそろお母さんを許してやらなきゃいけない。
お母さんの後をついてダイニングへ向かう。廊下に出るだけでとてもいい香りがした。
ダイニングの扉を開けると、色とりどりの風船があたりに浮かび、赤と青のギンガムチェックのクロスが敷かれたテーブルには、ホワイトシチューと枝豆のサラダ、山盛りのフライドチキン、アップルサイダーが並べられていた。
特に、ぼくはジューシーな脂の滴る山盛りのフライドチキンが大好物だから、胸いっぱいにワクワクが膨らんだ。
「ぷーちゃん、お誕生日おめでとう」
ようやく欲しかった言葉も聞けて、ぼくは大満足だ。
「ありがとう、お母さん」
手を合わせてすぐにフライドチキンにかぶりつく。
お母さんがグラスにアップルサイダーを注ぐ爽やかな音が聞こえる。
窓からは涼しい風が吹いてきて、色とりどりの風船を揺らした。
きょうもぼくの世界は平和で、穏やかで、特に何も起きないのだ。

11.21 フライドチキンの日、世界ハローデー
#小説 #フライドチキンの日 #世界ハローデー #JAM365 #日めくりノベル

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