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トメと運命的な出会いをした、あの日(←大袈裟)

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前回の記事と少し重複するところがあるが、
実際にトメを引き取った時のことを書いておきたい。

1月の正月明けの週末、旦那さんと僕は
栃木の広い空と広い台地をレンタカーを走らせていた。
正月明けの季節を絵を描いたように、栃木はのどかだ。
東京よりも空が高い。

住所を頼りに、店舗らしき建物に着いた。

「こんにちはー」と案内された建物に入ると、
そこは穏やかな時の流れるカフェみたいな感じだった。
ウッドテイストの部屋に、カウンターがあって、
窓のそばには椅子やテーブルが並んでいた。

僕と旦那さんが空間に入ると、2匹の犬が駆け寄ってきて、
その1匹が、僕が当初「可愛い!」と一目ぼれした男の子で、
その後に近づいてきたのがトメだった。

「保護犬」という言葉に、若干のネガティブなイメージを
勝手に抱いていた僕は、少し驚いた。
こんなに人懐こいのか。

トメは、写真で見るよりも、ずっと可愛く、いじらしかった。
足元に来て、撫でるように姿勢をかがめると、
僕たちを見上げて、なんとも言えない表情でまた、
その空間の中を歩きだした。

「奥のテーブルにどうぞ」と案内されて、
ちゃるさんは言った。
「あなたが最初会いたいといった男の子も、
 引き取り先候補が決まって、今日、面談なんです」

子犬の男の子は、写真で見た時よりも、大きくなっていた。
「雑種だとね、どこまで大きくなるかわからないのよ。
 こんなに小さくても、将来20㎏まで大きくなることもあるの」
ちゃるさんは、そう説明した。

外に大きなバンが停まる音がして、夫婦と思われる人が、
僕たち同様に建物に寄ってきた。
横浜ナンバーだ。

「自営で仕事をしているから、大きい犬でも大丈夫なんですって」
ちゃるさんは玄関に迎えに行く。

外に目をやると、敷地内に、網で囲われた、それでも
かなり広いドッグランがあった。
そこには大きな犬が、大きな声で吠えていて、
建物の中にいるトメと子犬とは様子が違った。
「あれはね、もともと野犬なの」
ちゃるさんが僕の言葉にしない疑問に答えてくれた。

横浜からきた夫婦と、僕たち夫夫?と並んで、
ちゃるさんの話を聞くことになった。

「まずは1週間のトライアルをしていただきます。
 里親と保護犬には相性があるから、一度連れて帰って、
 でもやっぱり難しいかな、と思ったら、
 迷うことなく連絡ください。
 無理して一緒に住むことはありません。
 こちらで責任をもって、別の里親を探します」

うんうん、と話を聞いている4人は頷く。

「もし、引き取ると決めたなら」とちゃるさんは続けた。

・予防接種を必ず受けさせること
・フィラリアの検査をすること
・散歩にちゃんと行くこと
・フードは、いいものを与えること

「何より家族と思って、大切に接してください」

はい、と答える。

「犬はね、本気を出せば、人間の手なんて嚙みちぎれるの。
 でも、ちゃんと接してくれる人間には、そんなことしない。
 信頼を寄せると決めたら、健気に、主人と見なして、
 こちらの言うことに従います。
 結局のところ、人間次第なの」

僕はまた頷く。

「それから、犬は思う以上に長生きします。
 10年、15年、一緒の日々が続きます。
 この世界を去るまで、そばにいることを約束してください」

「他にも」とちゃるさんは手書きのノートを
印刷した書類を何枚か、僕たちに見せた。
そこには、色々なアドバイスやルールが書いてあった。

「1週間後に、引き取ると決めたら、連絡をください。
 そして、これはお願いだけど、その後も、定期的に
 元気かどうかの報告をしていただきたいんです」

「わかりました」と4人で答える。

人間が話をしている間、犬2匹は、おとなしく、
お互いに適度な距離を保ちながら、くつろいでいた。

「トメちゃん、良かったね。東京に行くんだよ」
ちゃるさんがそう言って、トメの頭を撫でた。

「では、首輪を」と言われて、
僕は栃木に行く途中で買った合皮の首輪を取り出したのだけど、
実は到着した時からずっと、玄関のところに
吊るされていた緑の首輪が気になっていた。

「あの首輪って商品ですか?」と訊き、
「そうよ」と答えたちゃるさんに、購入の意思を伝えた。

何となく、緑の方がトメに似合いそうな気がしたし、
何より、ちゃるさんとの思い出が欲しかった。

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緑の首輪をつけたトメは、おとなしく、
リードもつけさせてくれる。
「じゃぁ、外に出てみようか」と声をかけ、
若干、緊張しながら、右手に力を入れる。

栃木の土の上をトメが走り、僕にとって初めての散歩をする。
外の囲いの中の犬たちが、大きく吠える。

「元気でな、って言っているのかね」とトメに話しかけ、
一通り、走り歩いた後、レンタカーに戻る。

「ちゃるさん、ありがとうございます。
 1週間、まずは一緒に過ごしてみます」

「あなたたちなら大丈夫そうだけど。
 トメ、良かったね」とちゃるさんは笑った。

空は夕方の訪れを色で示していた。
旦那さんがハンドルを握り、僕はトメと一緒に、
後部座席に座った。
トメは布製のケージに閉じ込められて、不安そうだった。
端っこのチャックを開けると、鼻を突きだし、
僕が手を差し出すと、くんくんと匂いを嗅ぎ、舐めた。

「じゃぁ、行くよ」と旦那さん。
2人で栃木に来たレンタカーの中に、1匹が加わり、
東京に向かう帰路についた。


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