5月2日

忙しすぎて、何もする気になれなかった。
ふた月以上も過ぎ去って、その時私が思っていたこと。
書き残せなかった記念すべき16回目のお別れ記念日をやり直す。

過ぎてしまってから、今日が5月2日だと気がついた。
そんな日が来るとは思ってなかった。毎年、貴方の墓石の前で過ごしていたはずの日が、今年はいつの間にか過ぎ去っていた。

忙しいことは嫌いじゃない。

本当にこれで良かったのだろうか。
感染病が流行してしまったことは、単なる偶然ではあるけれど、今日で16回目だった。
私と貴方が取り決めたお別れ記念日のルール。

「今日が何かの記念日だとして、貴方は私とどんなデートをしてくれるの?」
そう問いかけて始まったやりとり。
「まずは夜景の見えるレストランですね、ベタだけど」
「そのあとは?」
「東京タワーが見えるBARでもう少し飲みましょう」
「それから?」
「笑。じゃあ、定番のホテルの鍵でも見せましょうか?」
「無言でついて行っちゃうわね、私。」
「部屋をあけたら薔薇のベッド。笑。ですかね?やっぱり笑。」
「でも、泊まるのはやめようね」
「泊まらないんですか?もったいない笑。」
「ホテルを出たら駅まで手繋いでくれる?」
「いいですよ。記念日ですから。」
「駅に着いたら、私が先に背を向けるわね」
「じゃあ僕は見送りますよ。見えなくなるまで」
「貴方はきっとすぐに背を向けるわ」
「その方がいいならそうします」
「私が振り返った時には貴方の背中しか見えない。見えなくなるまで見送るのはきっと私の方よ」
「どうですかね。」
「きっと、そうよ」

「で、今日は何の記念日なんですか?」

「お別れ記念日」


「来ないですよ、そんな記念日」

貴方が言ったように、そんな日は来なかった。
別れた1年後の同じ日に、見送るべき貴方の背中は、この世にはもうなかったから。

あれから16年。

貴方が当時、よく言っていた。
36歳までで人生を終えるつもりだと。
18歳で折り返したと思ったと。
貴方が36歳になるはずだった日は、もう目の前まで来ている。

これで、終わり。
貴方が予告した16年間は、予想外に長く、その長さ故に、私は16年前のことを忘れかけた。

薄情だな。
あんなに、愛していたのに。

唯一、愛していたのに。


貴方がいないこの世の中は、愛ってなんだっけ?と言わんばかりに、1人を想うことが難しくなって、私はただ、その時々でそばに居てくれる人を選んでいた。

貴方以外、愛せない

貴方のことも愛せない

そんな、16年だったから。
さて、これからどうしようか。

これからどう、生きようか?

読んでくださるだけで嬉しいので何も求めておりません( ˘ᵕ˘ )