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凡人企業がブランドをつくるには?『実務家ブランド論』読書録

『実務家ブランド論』(著:片山義丈)という本を読みました。
著者はあの「ぴちょんくん」や「うるるとさらら」で有名なダイキンでブランド担当をされた方です。33年間ブランド論の本やセミナーで勉強して実践しては失敗を繰り返し、経験を結晶化した、実務家のためのブランド論です。そのためブランドの経験が少ない私にもわかりやすい内容になっていて、出会えてよかったと思える本でした。

凡人はスーパースターにはなれない

凡人企業や凡人商品では、どんなに頑張ってもスーパースターブランドにはなれないことを自覚し、身の丈にあった凡人向けの方法論、実務家ブランド論を作ることが何よりも大切です。

スタバやNikeなどが君臨するスーパースターブランドにはいくらがんばってもなれないから目指すな、と言っています。
ブランドは約束だ、とわかったようなわからないような定義でブランドづくりをすると、スーパースターにだけ許される方法論をマネて、かっこいいアートな広告を出したりして失敗する、ということなのです。
では凡人は何を目指すかと言うと、著者が提唱する実務家のブランド階層における4層目、「なんとなく好き」レベルのブランドです。

名称未設定のアートワーク 51

ブランドは妄想だ

著者は、「ブランドは約束」「ブランドは差別化」といった教科書的なブランド定義はスーパースターブランドが前提になっている、と指摘しています。他社とそこまでの違いがない商品で約束とか差別化なんてどうがんばってもなれませんと言い切っています。

ではブランドとはなにかというと、「妄想(その人の頭の中にある勝手なイメージやもやもやと思い浮かぶもの)」だそうです。あえて「妄想」というワードを使っているのは、ブランドは生活者のものであり、良いものも悪いものも含むというニュアンスを示したいからだそうです。

意図的に「ブランド=妄想」を作るためには

はじめにやることは「土台作り」
ここではとにかくスーパースターブランドへの「憧れ」だったり、SDGSを意識して無理に「世のため、人のため、地球のため」みたいなことを言って実態を伴わないメッセージを作らないことが重要です。

①存在価値(ブランドアイデンティティ)
企業や商品が「なぜかこだわっている」こと、「あなたの企業・商品らしさ」

②約束(ブランドプロミス)
企業や商品があることで生活者にどんな良いことがあるのか

③人格・個性(ブランドパーソナリティ)
企業や商品を人に例えるとどんな人なのか

次にブランド戦略づくり
ブランド戦略は「ブランドづくりにおける目的達成のための資源利用の指針」です。音部大輔氏による戦略の定義を引用しています。

①目的・・・日本中の人がなんとなく好きになる、ではなく、5階層のどの人を動かすのかを定義する
②資源・・・ヒト・モノ・カネがどれだけ仕えるかをはっきりさせる
③やることとやらないことを決める・・・1と2ができた上で、5階層にどれくらいの人が分布しているかを確かめ、やること、やらないことを決める

そして方程式に基づいて一貫性のある発信をする
いよいよブランド(妄想)を作るフェーズでは、ブランドの方程式に従って、あらゆる接点で一貫性のある情報を発信していきます。

<ブランドの方程式>
ブランド=情報×接点×貯金箱

具体的には、トリプルメディア(オウンドメディア/アーンドメディア/ペイドメディア)の特徴を押さえ、それぞれのメディアで一貫性のある情報を伝えます。
また、現代は生活者が処理しきれないくらい情報が溢れており、生活者がバリアを張っています。情報を届けるためには、生活者に価値ある情報へと変換してバリアを破ることが必要です。

<生活者の情報バリアを破る方法>
①クリエイティブの力を使って内から破る
・情報そのものが楽しいクリエイティブを作り、最後に伝えたいことを見てもらう(ex. auの三太郎のCMなど)
・しかし凡人ブランドにはどう転ぶかわからない、予算がかけられないという側面もある
②「絞る」と「続ける」
・ターゲットと伝えたいことを絞り込み、バリアを破れる確率が高まる
・同じことを愚直に続けることでも、短期記憶が残りバリアを敗れる確率が高まる

そして、効率を上げるための重要な観点はロゴマークにブランドの情報を貯めていくことです。発されている情報がどのブランドからの情報なのかがわかるようにクリエイティブを作ることは非常に重要です。

ブランドづくりは一人でできないからこそ、この本が必要だ

ブランドを作るための接点は、広告、WEBサイト、店舗での接客、SNS、商品やサービスそのものなど、あらゆるものがあります。そのためブランドづくりは一人ではできません。ブランド担当者が社内のあらゆる人を巻き込んでいく上ではわかりやすい言葉を使ってブランドとは何かを伝え、社内の定義を揃えていくためにとても参考になる本だと思いました。

私がこの本を読んだ理由

私は「ブランド」を冠する肩書きを持ったことはないのですが、商品企画や広告の仕事をしていて、商品パッケージのデザイン、広告バナー、自社のサービス案内資料のデザインなど、その商品やサービスの「らしさ」をビジュアルに落とし込むことに取り組んできました。将来的にもっと「ブランドを作る」ことに軸足をおいた活動をしていきたいと思っています。
一方で、直接的に数字に反映されるようなことではないので、自分がやっていることって意味はあるのかなあ、という疑問もありました。「ブランドを作る」ってどういうことなのか、もっと理解したいと思ったのがこの本を読んだ理由です。

この本を読んで、「ブランド=情報×接点」の方程式になぞらえれば、あらゆる接点でブランドを意識してクリエイティブに落としこむ姿勢自体は間違ってはいないよな、と勇気をもらいました。

著者は最後にブランドの測定や評価方法の限界、ブランド実務家が「なんとなく好き」な状態をつくる活動がブランドづくりに貢献できる範囲の限界にも言及していて、「自分の活動がどれくらい意味があるのか」という気持ちとの葛藤は続いていくものなのかもなあ、とも思いました。

そもそも著者が33年もブランドづくりをするなかでやっとたどりついたブランド論。自分なぞがちょっとやそっとでわかった気になっちゃいかん。
ブランドづくりは忍耐強く取り組んでいくものだという心構えも教えてもらいました。

グラレコ

名称未設定のアートワーク 52


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