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映画へGO!「落下の解剖学」

(※多少のネタバレあります)
カンヌのパルムドール、アカデミー賞の脚本賞などを受賞、かつ法廷モノということで観に行って参りました。(法廷モノ好きなので・・)

確かに深く激しいセリフの応酬は見応え十分であり、その情報量の多さゆえ、観る側のエネルギーを大きく消耗していくレベルです。笑

一方法廷モノとしては、アメリカの裁判(例えば「SUITS」的な)から連想されるような、いわゆる知的ゲームのラリーを繰り返しながら、白と黒をはっきり決着させていくようなスカッとした展開ではありません。

舞台はヨーロッパで、そもそも裁判に登場する、裁判長・検察・弁護士・証人などがみな人間臭く一癖あるのですが、裁判が進めば進むほど、より真相の沼にはまり込み、有罪か無罪かの勝負より、むしろそこに絡みつく人の心のひだや人間関係のドロドロした部分に意識の焦点が移されるという、ユニークな映画体験でした。

恐らくは監督の狙いだと思うのですが、主演女優(ザンドラ・ヒュラー)の独特の風貌や佇まい、そして演技力により、この人が犯人なのかどうなのかが、ギリギリの綱渡りのようにわからなくされていて、それはエンディングを迎えた時ですら感じるのでした。

とはいえ、単なるモヤモヤで消化不良に終わっていない読後感は流石だと思います。

というのも、人間の善悪、あるいは法的に有罪か無罪かですら、0と100とでは決め切れない・・というようなことがこの映画のメッセージの根幹にある気もしますし、一方で、ラストの方で被告人だった妻とそれを支えた弁護士が恋愛関係に陥るのを踏みとどまるシーンが、この映画を包んでいたどっちつかずの霧を晴らしてくれて、母と子の絆が最後の最後に、うっすらと浮かび上がって来たと感じました。

個人的評価:★★★★☆
視覚障害を持つ、主人公の息子役を演じたミロ・マシャド・グラネール君の演技も素晴らしかった。視力はないが、愁いと知性に溢れた瞳や表情で、揺れ動く子ども心をとても切なくエモーショナルに表現していました。



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