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映画へGO!「パール/Pearl」

(※多少のネタバレあります)
予告編を見た印象だと、ポップでスタイリッシュなホラーを想像して映画館に足を運んでみましたが、実際観てみると、赤が強調された色彩感の豊かさは素敵でしたが、映画の作りとしては、むしろ昔ながらのハリウッド調を敢えて大胆に取り入れた不思議なタッチの作品でした。

ホラー映画と言えば、先日観た「ミーガン」ほどのわかりやすくバズるようなユーモアがあるわけではなかったですが、でも、シリアルキラーとなったパールによるひとつひとつのおぞましい殺戮シーンには、独特のムードとキッチュな演出が兼ね備わっていて、監督のひねりの効いた美意識を感じ取れるオリジナリティを届けてくれます。さすがA24。

映画の主題として、抑圧された人の感情、親子間の愛憎のしこり、子供の頃に描きながらもこじらせてしまった夢など、熟成に熟成を重ねていった人間の情念の怖さを、ディティール巧みに描いており、結果本作品を単なるグロテスクな怖がらせホラーとは一線を画した深みを与えているのと、その主人公の変幻激しいいろんな表情を演じ切ったミア・ゴスの存在感は怪物級です。そういう意味では上質のエンターテイメントですね。

特に自らが泣きながらのモノローグを始めつつ、やがてそれが殺意へと変わっていくスイッチの入り方などは、いま思い出しても怖い。。笑
また、かかしとチークダンスをしながらディープキスをして「私は人妻よ!」と一人叫ぶシーンなどは、とんでもない独りよがりの狂気が全開してます!

さらにひとつのハイライトであるオーディションのシーンも秀逸。
パールの心象風景とも言える、不気味なミュージカルのステージは、“とにかく変”としかいいようがないシュールさなのですが、演り切った感いっぱいのパールには、自分がオーディションで落とされたことを受け止められません。タイ・ウェスト監督に「ここ笑っていいとこですよね?」と質問したくなる場面ですが、展開としては、ここからパールは決定的に壊れていきます。

そして話題となったラストシーン。
ミア・ゴスの強烈なこの顔芸こそが、作品の不思議な質感やパールの感情の複雑さを共に象徴し、うまくまとめてくれています。怖いですけど……

個人的評価:★★☆☆☆
良いセンスを持った監督だとは思うのですが、もっと振り切ってもらって良かったかも。


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