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映画へGO!「ポトフ 美食家と料理人」

(※多少のネタバレあります)
タイトルからすると、料理を真ん中に置いたハートウォーミングなロマンチックコメディーみたいなありふれた感じが想像されて、遠慮しようかと思ったのですが、監督がトラン・アン・ユンであれば「大丈夫なはず・・」ということで鑑賞。
結果、観て良かった、見逃さなくて良かったと思える作品でした!

ちょっとスノッブだけれども、フレッシュなセンスが溢れていて、平凡に陥らないラブロマンス・人生賛歌。ココロ震わされました。

自分自身が料理をよく作る方なので、長回しで撮影された調理シーンにはとにかくウットリさせられます。ビジュアルと音のシズルは官能的。匂いや味までイメージしたくなる圧巻の熱量がビシビシとスクリーンから伝わってきました。
フランス料理ならではの、歴史に基づく理論や体系の奥行を感じさせる数々のシーンをじっくりと堪能できたのです。

それだけでも、十分に素晴らしいエンターテイメントなのですが、そこに美食家と料理人という、成熟した二人の男女の愛のすがた・かたちが織り込まれていて、まるで生きることのほぼすべてが切り取られ、スクリーンで再現されているようでした。(映画って素晴らしい!)

特に好きなシーンがふたつあって、ひとつは二人の結婚式での新郎(美食家)のスピーチ。着席スタイルの気持ちの良い屋外パーティーなのですが、そこで新郎は歩いて自らの親友たちひとりひとりにボディータッチしながら、料理人である妻への想いを語ります。あまりに祝祭感と愛が溢れていて、涙腺を刺激されました。

もうひとつは、結婚のプロポーズをとうとう受け入れた新婦(料理人)が、自らの部屋のベッドで新郎を待つシーン。結婚指輪が隠されたデザートプレート上の洋梨と同じような姿勢で、新婦が全裸になっているという、ちょっとやり過ぎでクスっとしてしまう演出なのですが、でもロマンチックなムードを生み出しているのでした。

一方で新婦が亡くなるシーンも独特で、過剰に煽るような盛り上げ方をせずに、妻が亡くなっているのを見つけた夫が、信頼している召使に確認に行かせるという、なぜか間接的でシンプルな描き方をしています。

このように、すごくディティールを表現するところと、一気に省略するところのメリハリのセンスに監督のモダンな演出家としての趣味の良さを感じました。

終わり方も自分としては好みでした。死んだはずの妻からの問いかけ「私はあなたにとって、妻だったの?料理人だったの?」
これは愚問なのです。なぜなら二人の間には確かな愛があるから。
気持ちが通じ合えれば、どちらでもよいのだという風に私は解釈しました。

個人的評価:★★★★☆
素敵なドラマでした。トラン・アン・ユン監督は今後も追いかけたいと思える才能です。
邦画タイトルは、サブに付いている「美食家と料理人」の方にして欲しい。(笑)


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