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paionia 『Pre Normal』release tour東京編 の激長感想

paioniaを観るのは2019年の新代田でのライブ以来、実に3年ぶりらしい。
2019年のライブは「魂とヘルシー」という自主企画で、ワンマン。まだコロナが流行する前で、軽い気持ちで東京に行ける時期だった。

独身だった私も軽い気持ちでこれを観に行き、そして衝撃的な感動に打ちのめされた。今でもこの時のライブは人生のベストアクトだったと言えるくらいに。
今日までの3年間この記憶に救われたことも少なくない。だからそれ以降コロナだの何だののせいでpaioniaのライブが観られなかったことは精神的な損失だった。

ところで、私の生活は、その3年の間に結婚して妊娠して出産をして、と激変していた。

正直今回のワンマンも、まだ全然コロナ禍だし、後追い赤ちゃん(かわいい)がいる状態で東京まで行くのはどうかしら……と思ったけど。
大切な人たちが行っておいでと言ってくれることや、実家が息子を預かってくれたことに甘えさせてもらった。何より今のpaioniaをワンマンで観たいという思いが本当に強く、感染対策をめちゃくちゃ徹底した上で観にいくことに決めた。

それからは毎日、今の私にpaioniaの音楽がどう響いてくれるのか楽しみで仕方なかった。

結論から言うと、今回のライブも最高だった。
最高なんて軽々しく言うと感動が薄まるような気がするからあまり言いたくないけど、その気持ちを超える最高さだった。

paioniaは間違いなくライブバンドだと思う。
音源で聴くのも勿論とても好いけれど、ライブでの彼らの演奏は激しく、熱っぽい。この温度感を感じるために私はライブに来ている。

前回のライブでは、サポートの佐藤さんのドラムがpaioniaにとってどれほど大切なものかというのを突きつけられたけど、今回は菅野さんのベースに同じようなことを思った。

そもそも、私はpaioniaという熱の塊の中で、菅野さんは圧倒的にクールだと感じている。それは熱さがないという事ではなく、燃えすぎた炎が青くなるようなもので、熱い旋律をあくまで冷静に演奏する人、の印象だという意味。

今回のライブでは、高橋さんはもちろん熱源のような歌と演奏を。そして佐藤さんも、前回と比べて熱を隠さないような演奏だった気がする。その中で対抗するように菅野さんのベースラインはクールに、しかし存在感を持って鳴っていた。

メンバー全員が炎のような熱を纏ってライブをするバンドもたくさん居るし、そういうバンドの轟音にに感じる格好良さも勿論ある。
だけど今日のpaioniaの場合は、菅野さんの音が2人の熱い音をシメる役割を果たしているお陰で、曲の全体像が見やすくなっている気がした。ベースがクールなお陰で、曲の輪郭が際立つというか。ありていな言葉で言えば、静と動の対比がとても好いメリハリになっていたと感じた。
あくまで私の感想ですけど。

あと単純に、高橋さんと佐藤さんが割と暴れるようなプレイをしていたので、菅野さんがあまり動かず飄々と弾いていたのが、ステージの見映えとしてめちゃくちゃ格好良かった。画面が引き締まる感じ。

佐藤さんのドラムは曲の衝動に身を任せるような演奏で、でも信じられないくらい正確でキメが美しい。佐藤さんは今回演奏中にたまに白目を剥いて、まるでエクスタシーに耽っているかのような表情をしていた。高橋さんが憑依したみたいに彼そっくりの表情だった。

高橋さんの歌は熱く、ただ熱く。それでいてさらに穏やかな落ち着きも併せ持っていた。『人の瀬』が発表された時から、高橋さんの歌には今までより深く大人の色気が纏わりついているみたいだと思っていた。これが年齢を重ねた結果なら、年をとるたび高橋さんは無敵になっていくと思う。
本当にpaioniaってこの3人で最強だ。

曲の感想も書く。
1曲目の『金属に近い』では、4カウント後のイントロの出だしとともに、ステージ後方のスクリーンにpaioniaのロゴがパッと現れる演出がすごく格好良かった。ライブ映像が公開されているので是非見てほしい。

私が初めて聴いて衝撃を受けた『サニーハイフレット』や『帰るところ』も前半に演奏された。だけど今の私には、それらの曲よりもその後の『跡形』が刺さった。

『跡形』は2018年に出たアルバム『白書』で発表された曲で、当然もう何度も聴いてきた曲だ。

仕事に疲れて電車で帰る
それはいいことか
一日の慰めと酒をあおる
それがいいことか

爆音で殺した退屈や
星空が語る遠い街
俺たちはあの日の俺たちと
抱きしめ合える日を夢見てる

『跡形』/paionia

その何度も聴いてきたはずの曲を聴いて、唐突に「私って今のために生まれてきたのかもしれない」と思い、涙が出た。

この詞の中の「仕事に疲れて電車で帰る」ことや「一日の慰めと酒をあおる」ことは勿論いいことではない。
音楽、生活、友情、夢、そういう大切なものに費やしたいはずの時間を、仕事終わりの疲れや慰めの酒のために消費するということだもの。少なくともそれは「あの日の俺たち」が求めている日々の過ごし方ではない。

過去の私も同じで、特に望んだわけでもない仕事や、疲れて眠るだけの一日を繰り返すたび、今自分は、かつて「こうありたい」と願った姿から離れていっているのだと感じていた。
その望まない日々が自分の人生のアルバムの1ページを飾っていることが本当に嫌だったし、もっと大切な経験や思いでもって他のページは埋めていきたいと強く思っていた。

要するにこれまでの私の人生は理想とかけ離れたものだった。あの日の俺たち、っていうかあの日の私が願っていた夢は、日々に漬け込まれて死んでいた。

だから私はこの曲を聴くたび、自分に向けた祈りのようだと思っていた。
「過去の私に恥じない私であれますように」「あの日の私と抱きしめ合えますように」と祈ってもらっているようだ、なんて。色々と棚に上げて。私にとっての『跡形』はそういう曲だった。

だけど、この日この曲を聴き、ふと浮かんできたのは大好きな可愛い可愛い赤ちゃんの顔だった。正直この曲と息子の存在にリンクすることは何一つ無く、自分の冷静な部分が「何で今息子?」と語りかけてきたりもした。

多分その答えは(これはライブ後に考えたものになるが)息子が生まれてから、自分の人生がかなり「いいこと」の積み重ねになっていることに由来すると思う。
息子が生まれて以来、私は毎日彼のお世話をして、寝かしつけて、話しかけて、抱っこして、一緒に遊んで、笑いかけてもらって……そういうことを必死で繰り返してきた。それはめちゃくちゃしんどい日々だけど、望んでいない仕事なんかよりやりがいがあったし、何より息子が笑ってくれるだけで幸せになれた。

現在を過去と比べると、生産性のない日々を送っているのかもしれない。だけど現在の方が絶対に人生を大切に生きている自信がある。人生のアルバムに現在のことは絶対に載せたい。それどころか、今までの記憶が全部消えたっていいから、息子が生まれてからのこの1年の記憶だけは死ぬまで持っていたいと思う。

就職しようが、結婚しようが、さして変わらなかった人生の価値観を息子は変えてくれた。それを『跡形』を聴きながら直感的に感じ、ありがたくて幸せで涙が出たのだと思う。勝手だけど、今まで騙し騙し生きてきたことがきちんと報われた気持ちになった。

ちゃんと生活が「いいこと」となった今、退屈を爆音で殺す必要もなくなった。自分はこういう人生を送れて幸せだと思えたこと。そう感じられるようになった現在の為に、今まで生きてきたのだと感じた。『跡形』は、この瞬間から過去の私に送る曲になった。

なんだかこの曲が思ってもいなかった方向から刺さってしまって、その時は自分に驚いたけれど。paioniaの音楽って案外ずっとそういうものだったかもしれない。その時の自分の暮らしの鏡というか、
生活、ひいては人生と勝手に脳内でリンクして、それに基づいた感情を自分の中から引き摺り出してくれる感覚。かなり個人的な感想だと思うけど、こういう気持ちが自分の生き方を見つめ直すきっかけにもなる。
だから私はpaioniaの音楽で勝手に救われたり、報われたり、たまに感情的になったりする。

どんどん話が膨らんでいくからこの辺で萎ませておこう。
後半も本当に最高だったんだけど、なんかもう『跡形』で感情使いすぎて無意識に自分をセーブしながら見ていた感がある。

後半に、学生時代の本当に大切な曲だった『彼女の握る手』を久しぶりに聴いた時も、想定ほど揺さぶられることは無かった。懐かしいな〜と思う程度で、あとは自然に曲の美しさに浸ることができた。
『彼女の握る手』は個人的に過去の苦しかった恋と結びついていて。音源で聴くたびに、記憶に胸ぐらを掴まれる類の曲なんだけど、今回は全然そんなことはなかった。とても綺麗な曲だと素直に感じられたのが良かった。

と、浸っていると、終盤に演奏されたのは『夜に悲しくなる僕ら』。
これは菅野さんが作った曲で、ライブ感が凄まじい曲。今回のライブでは、特に後半の演奏の熱量が凄かった。ちなみにこの曲の途中、演奏が激しすぎて高橋さんの弦が切れるハプニングもあった。

余談だけど、paioniaのことを人に話すと何故か最近「チル」とか「オシャレな感じの」とか言われることが多い。「フジロックで瓶ビール片手に夜見たい感じのバンドだと思ってる」と言われたこともあった。
それはまあイメージの話だし全然良いんだけど、個人的な意識ではこのバンドはそんなんじゃなくて。生活というものを気取らず、格好つけず、葛藤さえありのまま書いて、感情をそのまま歌に落とし込もうとする、かなり生々しいバンドだと思っている。人によっては目を背けたくなる感覚まであるかもしれないとも。

そして無限回言ってるけど、演奏の熱量が凄まじい。
この生々しさを、この熱量の演奏で浴びると、ある種のエクスタシーを感じることがある。曲と自分の人生とが強烈にリンクして、人生のやるせなかった瞬間が曲と共に昇華するというか、そんなイメージを持ってる(演奏中に興奮してそういう感じのことを勝手に思っているだけなので、冷静になったら全然違うのかもしれないけど)。
この感覚は特に、生で演奏を聴いている時ならではのものだ。勿論paioniaにチルアウトを求めたって良いんだけど、個人的には、ライブバンドという言葉がこんなに似合う人たちは居ないとまで思う。

話を戻すと、この『夜に悲しくなる僕ら』はまさにpaioniaがライブバンドたる所以を見せつけるかのような、凄すぎる演奏だった。あと単純に、ライブハウスでロックバンドを観るのが本当に久しぶりだったので、その感覚もだんだん思い出してきて興奮してしまった。

最高、ライブはこうでなくちゃ……と思った途端、続いて演奏されたのは『小さな掌』。もう感情の落差が凄すぎて追いつけないかと思った。

もう詳しくは書かないけど、子供が産まれた私のテーマソングになった曲。日々を大切に思うことができる曲。生で聞いたら泣くと思っていたけど、意外と泣かなかった。代わりに「優しさなんかいらないよな」と歌詞をなぞるようなことを思った。

『素直』を挟んで、最後は『人の瀬』。
paioniaには、キメ系の曲(語彙が無くてこういう表現しか出来ないことが悔しい)が多いと思っているけど、『人の瀬』は流れるように続いていく曲で、初めて聴いた時には漠然と「海のような曲だ」と思った。

生で聴く高橋さんの歌には音源よりも色気があり、一種の安心感があった。
これまでのpaioniaの過去のライブを思い返すと、高橋さんは命を削るかのように歌っていた印象がある。それに比べて、この日この曲を歌う高橋さんからは何というか「広がり」みたいなものを感じた。命が声に乗って、どこまでも広がっていくかのような歌だった。包容力がある、という言葉が近いかもしれない。

ところで『小さな掌』はスクリーンに写し出されたMVをメンバーが背にしての演奏だった。
一方『人の瀬』にもMVがあるが、この曲は特に映像演出もなく、シンプルな光の中で3人が演奏してくれた。これが本当にありがたかった。

この曲自体はものすごく好きだが、MVは苦手だった。
2人の役者さんが曲の世界で生きているのだが、その役の「感じ」がリアルすぎて、曲と自分の生活をリンクする工程に支障が出るのだ。
この曲を聴くと、どっかでこの2人のことが頭に入ってきてしまう。本当めちゃくちゃな理由すぎて申し訳ないけど、映像作品として素晴らしいものだと分かってはいるけど、私はそうなのだ。

だけどこの日、個人的には最高純度でこの曲を聴くことが出来た。
(ちなみに『小さな掌』のMVは手や指のカットが美しく続き、「特定の個人」を感じさせない素晴らしい作りなので、ライブ中も映像・音楽に共に没頭することが出来ました)

そんな風に『人の瀬』を聴きながら、このバンドは絶対に売れるべきだと思った。
というか、色んな人に聴いてほしいと思った。
paioniaの曲は「生活」、ひいては「人間」というもののありのままを写してくれる。だから聴く人それぞれの人生を写す鏡になりうるのだと思う。それを覗くのって案外体力のいる事だけど、忙しない人生の中で立ち止まってそういうことをする時間って必要だと強く感じる。

そしてその人が、paioniaの曲を聴いて何を思ったか、どう感じたか、そういうのを教えてほしい。話がしたいよ。そういう気持ちでもって、私はnoteにこの日感じたことをまとめておくことにしたんだ。
そしたら、えらいまとまりのないことをダラダラ5000文字も書いてしまった。暇なんか?

長くなったけど、そろそろ終わりにしたいと思う。
色々思い返すと、心が生き返る気持ちだ。

高橋さんはMCで、臆面もなく「売れたい」と言っていた。色んな意味で彼も大人になったんだ、と偉そうなことを思った。
何度でも言う。絶対に見つかってほしいし、色んな人に聴いてほしい。売れてほしいと思う。

アンコールをしっかり3曲やり、足早にポスター当選者の抽選を行い、この日のライブは終わった。
終わってしまえばあっという間だったが、今の私にしか感じられない感情を、このライブで感じられて良かった。

SNSにちょこちょこライブ映像があがっているらしいので、ここまでこのクソ長文章を読んでくださった方は是非見てほしい。#paionia で出てくる。

こういう夜があると、生きていて良かったな、と、ライトだが素直に思う。
そしてこんな時代でも、paioniaの音楽がある時代に生まれてこられて幸せだ。
最高のアルバムを、そして最高のライブをありがとう、paioniaの皆さま。

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