茶トラ猫
開店前の『吉そば』の裏口から、1匹の猫が中を覗き「ニャ〜」と鳴いた。
「おっ、トラじゃねえか、ちょっと待ってな」
そう言って、鰹節を山盛り乗せたご飯の上から蕎麦つゆを掛け回し、トラの前へ。
「ほれ、食いな」
トラは、それを旨そうに平らげると、「ニヤ〜」と鳴いて、日向で腹を出して、うたた寝を決め込んだ。
暫くして、起き出したトラはひょいと塀に飛び乗り、塀から屋根へ、屋根から塀ヘ歩き、裏通りに出る。
そして、『洋食サブ』のキッチンを覗いて「ニャ〜」と鳴いた。
「おお、ムギ!今日あたり来るかと思って、しらす入りコロッケを作ってあるぞ!」
ムギは、コロッケを旨そうに食べると「ニヤ〜」と鳴いて、店を後にした。
そして、また塀から屋根へ、屋根から塀を歩き、夕日に染まる橋を渡り、ある一軒家のトイレの小窓から入り、台所の女性の足に頭を擦り付けながら「ナァ〜」と鳴いた。
「タマ、おかえり」