川崎にとっての2020-21シーズンが終わって約1週間後の2021年5月31日、ファンにとって信じられない、というより、信じたくないニュースが報じられた。

辻直人、今シーズンをもって契約満了。

正直、シーズン終盤くらいから、多くのファンが移籍するという噂を聞いていた人が多かったのではないか。かくいう私も、インターネットの海をさまよいながら、移籍するのか、いや彼に限ってそんなわけないと心が揺れ、食欲が落ち具合が悪い日々を送っていた。だから少しでもショックを和らげるため、勝手に覚悟していた。
それでも、川崎ブレイブサンダース公式が契約満了を知らせるツイートをしたときは動揺したし、それに添付された画像の
”THANK YOU FOR 2012-2021”
という字幕で、ファンになって日が浅い私でさえこんなに悲しいのに、9年という長い月日をともに過ごしたファンの人たちはどんな気持ちでこれを見ているのだろうと思い、自然に涙が溢れた。
レギュラーシーズン最終戦の活躍とヒーローインタビューでの充実の表情、そしてCSセミファイナルの最後に意地を見せるも敗れ悔し涙の表情、その全ての裏に｢最後だから｣という思いがあったことを、ファンはみんなあとから知ることになったのだった。

その直後、6月27日に岩手で日本代表の強化試合が行われることがリリースされた。
辻選手は日本代表候補に選ばれており、ファン感謝祭には参加できないことが決まっていた。契約満了になる6月30日までで、最後にファンが見られるのはこの場所になる。見ないと必ず後悔すると思いチケットをとった。

試合当日。終始日本がリードする展開の中、五輪代表への生き残りをかけた選手たちは各々持ち味を発揮して躍動した。ただ、辻選手のシュートはことごとくリングに嫌われた。この日得点は0で、本人も納得のいくような内容ではなかったのだろうということが試合後のツイートからも察せられた。

しかし、そのツイートにも書いてあったとおり、会場にはたくさんの辻選手ファンが詰めかけ、名前が書かれたタオルやボードがあちこちで掲げられていた。
私も岩手に行く前日の荷造り中、日本代表の試合に川崎のグッズを持ち込むのがマナー的に良いのか分からず悩んだが、どうしても最後に応援の気持ちを伝えたくてタオルをリュックにつめこんだ。だから仲間がたくさんいて安心したし、何より、好きな選手がこんなに応援されていることが嬉しかった。
みんな同じ思いだったと思う。
最後に、川崎ブレイブサンダース所属の辻直人に、心からのありがとうを伝えて送り出したかったんだと思う。



プロ野球ファンを長くやっていたので、移籍とはファンが出ていく選手に失望し、移籍先のチームに恨み言を言うのが常と思い込んでいた。
(もちろんみんながみんなそんなことはないが)
しかし今回の移籍では、私に見える範囲では辻選手に失望しているファンは全くいなくて、とにかく寂しくて今はすぐ受け入れられないが、新しい挑戦を応援します、という方が多かった。それがとても新鮮だった。

でもそれは移籍が多いBリーグの文化とか、バスケファンに優しい人が多いという話だけではなくて、ひとえに辻選手がどれだけファンに愛されてきたかというところに尽きると思う。それを岩手ではたくさん実感することができた。
たまたま、同じ辻選手のファンの人と少しだけ話をするチャンスがあった。もちろん推しが活躍できなくて悔しい気持ちはあったはずだ。それでもその方が言っていた、｢とにかく試合に出ているのが見られてよかった｣ということ。それが全てだと感じる。
調子がいいときのチームに与える勢いは当たり前に魅力的だが、調子が悪いときのもがく姿でさえも、ファンを引きつける存在だった。プレー中に見せるひたむきな姿、そしてオフコートで見せるおちゃめな姿や素直な言葉は、いつでも私たちの心を捉え続けた。

そこにいるだけで周りを明るくしてくれる、川崎の太陽。
いままで何人のファンがその存在に元気をもらってきただろう。



なんとなくずっと、移籍のニュースが出てから今まで、頭にイメージしている映像がある。
いつもとどろきアリーナにいる、辻選手のユニフォームを着ていたり、タオルやボードを掲げて応援している人たち。
現地に行けなくても、遠くから声援を送る人たち。
そういう人たちがみんな、それぞれの方法で、辻選手に手を振っている。
それに手を振り返しながら、新たな場所へ旅立つ辻選手。

彼は移籍のことを、｢辻直人の第二章｣と表現していた。
Twitterで篠山キャプテンが言っていた｢最終章｣がもしもあるなら。
そのときはとどろきアリーナで、みんなで大きな声でおかえりなさいと叫ぶのだ。

そのイメージが現実になることを信じて、来シーズンからも川崎ブレイブサンダースと辻選手のことを力いっぱい応援しよう。



辻直人選手、川崎ブレイブサンダースでの9シーズン、本当にお疲れ様でした。
そして、本当にありがとうございました。
新天地での活躍も応援しています。

どうかお元気で。

2021.6.30