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【考察】"Because it's there."

はじめに

イギリスの登山家ジョージ・マロリーは、記者から"Why did you want to climb Mount Everest?"(なぜエベレストに登るのか?)と聞かれ、"Because it's there."(そこにエベレストがあるからだ。)と答えた。
この名回答は、いつしか「なぜ山に登るのか」と問われた彼が「そこに山があるから」と答えた、と少々改変され、非常に有名なエピソードとして残っている。

身も蓋もないことを言ってしまえば、この"Because it's there."は、全く以て非論理的な回答である。眼前に世界最高峰エベレストがあるとして、現実にはそこに登ろうとしない人が大多数であるからだ。

姫島旅行記

私は2月に大分県の離島・姫島を訪れた。国東半島の北東に位置する、一周14kmほどの島だ。
全域が姫島村というひとつの村になっており、島へのアクセスは対岸から出ている村営フェリーに限られる。
離島とは言っても、船は1日12往復あるし、所要時間も20分程度と、絶海の孤島といった感じはそれほどない(本土側の港である伊美港が最寄駅から1日7本のバスで1時間半かかり、むしろこっちの方が隔絶感がある)。

駅から港までのバス。始発から終点まで乗客は私と同行者だけだった。側面のラッピングが奇抜すぎる
姫島行きのフェリー。青空に似合う色合いだ

島は自然の織り成す地形の美しさが際立った。
また、島では車海老の養殖が主要な産業となっており、しゃぶしゃぶで食べたのが非常に美味しかった。

かつて火口だったところだそうだ
褶曲地形。あいにく褶曲部分自体はよく見えないが、いかにもな見た目をしている
温泉。いかにも身体に悪そうな色をしているが、飲めるらしい

結局何をしに行ったのか

姫島は非常に良いところだった。飯が美味い、自然が豊か、そして人が温かい。都会人の求める"田舎"に必要な要素は一通り満たしている。
利便性で言っても、本土側の国東半島には大分空港があるから、自家用車を持っていればそれほど不便でもないのではないか。物価に関しても、本土と同じとまではいかないものの、与那国島や富士山に比べれば相当にまともである。

しかし、私は結局何を目的に姫島に行こうとしたのか。「行ってみて良かった」のは紛れもない事実だが、なぜ行こうとしたのかは自分でも分からない。
島のレンタサイクル屋さんでも、宿の優しいおばちゃんにも、「なんでわざわざこんな島に来たの?」と聞かれるが、答えが見つからない。一応、島を隅々まで周って、地域を網羅的に訪れることへの価値は感じていたが、日本に島はいくつもある。私には、"Because it's there."以外の回答が見つからなかった。

Because it's there考察

今になって思えば、彼の"Because it's there."という発言は、何もパフォーマンスでない、彼の本心だったのではないかと感じる。
私が姫島を訪れたのも、島に何か特別な目当てのものがあったわけではない。ただ、そこに島があることだけは知っていたから、訪れてみたのである。
どこにでも、行ってみればこれまで見たこともないものがあるだろうし、仮に何もなかったとしても「何もなかった」というのは貴重な感想である。

私は離島の旅を経て、偉大な先人に思いを馳せると共に、さらに旅の魅力に引き込まれていったのであった。

洋上から見た姫島の遠景。2021年6月、阪九フェリーの船上から撮影

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