歌わない者は耳を捧げる
彼の声には涙が出る。
彼はアーティストだ。
目を見つめたこともないし、話したこともない。
半径1メートルに入ったこともない。
ただ、どうしてか昔の好きな人のように思える。
切ない。悲しい。そしてどこか嬉しい。
喜怒哀楽の激しくなる胸の高鳴り。
これが、恋のような感情で、でも出会ったことのない人に恋なんて抱くわけなくて、だからきっと前世で片想いをしていたのだろう。
こうもして意味を与えてあげないと、知りもしない人間から好意を寄せられるアーティストが可哀想だ。
ただべつに、よ