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歌わない者は耳を捧げる

彼の声には涙が出る。
彼はアーティストだ。
目を見つめたこともないし、話したこともない。
半径1メートルに入ったこともない。


ただ、どうしてか昔の好きな人のように思える。
切ない。悲しい。そしてどこか嬉しい。
喜怒哀楽の激しくなる胸の高鳴り。
これが、恋のような感情で、でも出会ったことのない人に恋なんて抱くわけなくて、だからきっと前世で片想いをしていたのだろう。
こうもして意味を与えてあげないと、知りもしない人間から好意を寄せられるアーティストが可哀想だ。


ただべつに、よくオタクたちのいうリアコ(リアルに恋してる)ではない。
それを否定しているわけではないが、私の思う恋は必ず側にいる人間であるのだから。


そんなアーティストという遠い存在の彼。
私の中で、私の奥深くにある恋の気持ちを歌っている。
私の、言葉に表せない叫びを、音楽に乗せて、体を揺らし、声を響かせる。

初めて一人で涙した夜は、彼の音楽を聴いていた。
歌詞の意味を真剣に考えたのは、彼の詩だ。
生歌に耳を溶かして涙が出たのも、彼らの生み出す圧巻の迫力だ。

“聞かれたら困る話だけど歌に乗せたらいいよね“

そう、聞かれたら困るんだよ。
自分の悩みや隠し事は、一人で抱えたいことがある。
だけど歌ってさえいれば、だれもそれが人間の隠し事だなんて気づきゃしない。


じゃあ、歌わない私は、それを歌う彼に耳を捧げよう。



崇拝しよう。

indigo la End様。

川谷絵音様。

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