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高地トレーニングとしての数学

先が読めなくなった知的労働の未来

2023年は、ChatGPTを始めとするLLMや新世代のAIの革命的な台頭に引っ張られた一年だった。私たちプログラマーや、弁護士、弁理士、医師(の診断力)など知識の蓄積と言葉の論理がコアにある仕事も、確実に形が変わっていくことが見通しとしてはっきりしてきた。

このような流れの延長線上で、これら知的労働系の仕事は今後どうなっていくのか?、今後どんなスキルが必要なのか?というような議論が各方面から百出している。

しかし、どんなに予測しても予測しきれない変化の激しいこの時代である。どんな知的スキルも5〜10年後には無意味化する可能性がゼロではないし、生き残る可能性も多いにある。

そんなことを考えていた折、少し前に某SNSでみた議論が面白かったので、その話を書いてみたい。

どんなスキル変化にも対応したい

その議論の要点は、「個別スキルを追いかけても全部無駄になる可能性があるなら、将来どんなスキルが必要となっても即応できるような「あらゆるスキルもすぐに身につけられるスキル」、または「メタスキル」とでも呼べるようなものを高めておけば良いのではないか。その究極が数学ではないか」というものであった。

これは面白い発想だ。私は直感的に「これは知能の高地トレーニングだな」と思った。マラソンなどのスポーツの選手が普段から高地などの厳しい環境でトレーニングして身体能力を高めておき、それよりも環境条件が「緩く」なる試合本番で、余裕をもって力を発揮できるようにする、という高地トレーニングの発想と似ているからだ。

数学は人間の知的活動のなかでも、もっとも緻密で抽象度の高い体系であり、人間の思考力のあらゆる側面を総動員する学問である。それゆえ、数学を学ぶことは脳にとってかなりの負荷がかかる作業である。高地トレーニングで心肺や筋肉を酸素の薄い高地で鍛えるように、脳を数学による高負荷な思考で鍛えておけば、他のもっと「簡単」なスキルはすぐに身につけられるようになるかもしれない。

なかなかストイックな発想ではあるが・・・

数学な嫌いな人はどうすれば?

「数学を学ぶと良いよ」と言われても、数学が嫌いな人はかなり多い。最近の研究によれば、数学の能力は、かなりの部分が遺伝で決まるとも言われている。(参考記事:”数学は87%、IQは66%、収入は59%が遺伝の影響! 驚きの最新研究結果とは”)つまり、生まれつき数学がダメという人がいることなる。

とはいえ、それだけで諦めるのはもったいない。本当は適性があるのに、数学を習っていく段階の途中で、数学嫌いにさせられてしまっている人が少なからずいるからだ。

数学嫌いになってしまう要因として大きいのが、数学が積み上げ型の学問であることがある。小学校の算数からスタートして、中学→高校→大学と進んでいく数学の学習は、すべてそれ以前に習った知識や概念を土台にして次の概念を理解していく構造になっている。知識をレンガのように積み上げていかないと、それより先の数学概念に進めないのだ。

そのため、たまたま風邪で学校を休んだり、先生との相性が悪かったりして、一箇所でも理解が不十分なポイントができてしまうと、その後に習う事柄が全て理解不能となっていく。さらに子供は自分がどこでつまずいているのか自覚するのも難しく、もし自覚できたとしても、そこまで戻って自力で復習して遅れを取り戻すのはかなり困難だ。かくして、あっという間に授業がちんぷんかんぷんとなり、数学嫌いになってしまう。(このあたりの話は、後述の参考資料に詳しい情報がある。)

大人ならやり直せる

大人なら自分の弱点を客観視し、その対策を考えて計画的に学習に取り組むことが可能なはず。自己分析してみて、もし上記のような理由で数学嫌いになっているなら、最初につまづいたポイントまで戻って、そこから数学をやり直すということが可能だ。

もしこれから数年〜5年程度数学に打ち込む覚悟があるなら(その価値は十分にあると思う)小学校レベルからやり直しても、大学初級程度の数学までは独学できるだろう。というか、数学の理解を取り戻し始めたら、面白くてやめられなくなり、一生の趣味になる人もいるだろう。

幸い近年は大人向けの数学の学び直しをテーマにした書籍やセミナーなどが多数存在している。そうしたものを利用してみるのも一つの方法である。

参考資料

数学のつまづきに関する興味深い資料をいくつか挙げておきます。

教育現場視点での数学のつまづきの話:
膨大なデータから導いた、子供がつまづきやすいポイントの話


実は才能があるのに落ちこぼれにされてしまった子供に数学を教えなおすエピソードが感動的です:


結構ショッキングなタイトルですが:
親が、間違った方法で教えてしまい、逆に子供の理解を遠ざけてしまう話。
特に親が「勉強とは、問題の解き方を覚えることである」と思い込んでいる場合が危険。


その筋では有名な、数学独習本
中学生程度の予備知識から出発して、高等数学の入り口である「オイラーの公式」まで、懇切丁寧に説明している。

以上、お読みいただきありがとうございました。
タイトルとオチがずれてしまったな・・・

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