マガジン_掌編小説

バッタもんのゆびわ

あたしはずーっと、この指輪だけは本物だと信じてましたよ。今の今までほんとにね、あんたあたしにお母さんなんて呼んでもらえると思ったら大間違いだよ。人が聞いたら驚くでしょうね。死に水を取ってやることもせず。葬式なん以ての外と,ほったらかしで、不肖の子を絵に描いたような私のことを、みんななんて思うでしょうね。だけどね言わせてもらうけどあたし、人になんと思われようと、一向に構いません。だってあんたがあたしや父さんにしてきた仕打ちに比べればそんなの可愛いもんでしょ?昨日夢枕に父さんが現れました。父さんその時あたしになんて言ったと思う?「母さんがこっちへ来るそうやないか、二度とあいつの顔なんか見たくもないんだが困ったもんだよな」

 「最初が肝心だよ、ガツンと言ってやりな、2度と俺に関わるな、とっとと消え失せろ、ぐらいのことを。そうでも言わなきゃ、またあの頃の苦労の二の舞だよ」そんなあたしの言葉に父さんまたいつもの意味不明の苦笑いでうんうんうなずいてたよ。お願いだからもう父さんに付きまとうのだけはやめてあげて。

そうそうあの時はあんたに見せるつもりなどこれっぽっちもなかったんだけど、確か小学校2年の時「ママへの手紙」ていう作文を授業で書かされたんだ。いま手元にあるから読んだげるよ。

 ママへ

 ママの一番好きなところは、何にも云わないところです。学校をずる休みしようが、隣の席の子の可愛い筆箱を盗んでみんなに見つかろうが、いじめっ子の男子を階段から突き落として大けがを負わせようが、ママは怒るどころか、なにもいいませんでしたね。そして先生の呼び出しにも応じず学校に来さえしませんでしたね。ところでママ、あたしの背中にちっちゃなあざがあるの知ってた?あたしが本当は犬が嫌いでねこが好きなの知ってた?ママが父さん以外の男の人と暮らしたお家に、あたしが行ったことあるの知ってた?本当は妹か弟が欲しかったの知ってた?あたしの事何にも知らない、あたしがいようがいまいが気にも留めないママのことが本来に大・大・大嫌いです。

 先生があたし言って聞かせてくれたことがあるんです「みんなあなたのせいじゃないよね、あなたを見ているとかわいそうでならない」今考えるとそんなことホントは先生が言っちゃいけない言葉だよね。でもねあたし、あんたにじゃなくって、先生のその言葉に救われて今があるって思うわけ。親は無くとも子は育つってあたしの事を言うのよきっと。あんたとあたしなんか親でもなければ子でもないけど、

 最後にこの薄汚れた骨壺の中に、あんたがくれたこのバッタもんの指輪返しておくからね、ご丁寧にあんな立派な偽の鑑定書まで作って、人並みのいい親気取りであたしにくれたあの指輪よ、あたし今まで後生大事にとっておいたのよ、だってあんたがあたしにしてくれたただ一つの親らしいことだったもんね。あなたの事だからもうわすれちゃったか?・・・・・・

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