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入国管理局(FRRO)、それぞれの人生

昨日は、前日から気になって仕方なかったので、朝5時に起きて復習して、CSMの試験を受けていた。

がんばった感&充実度からいえば、「一日が終わった・・・!」と思える爽やかさであったが、試験が終わったのは、まだ朝の7時ぐらいだった(笑)

一日はこれからだ。

この日は、7月に入ってから戦い続けていた(?)、FRRO(入国管理局)に行く日であった。


5月に離婚が決まり、今持っているビザ(OCIカード、と言う)を返還しなければならない事は知っていたのだが、いつまでに返還しなければならないのかがはっきりせず、困っていた。

7月末に日本に帰国したいのだが、インドを出国すると返還が必須になるのかも知りたかった。

「早く返せ」って言われそうで、びくびくしていた私は、
「離婚は決まったけど、親権がきまっていないから、離婚は完了じゃない」と、結構むちゃなロジックでFRROに食って掛かっていたのだが、電話でもメールでも中々状況を理解してもらえず、結局、仕事が休みであるこの日に事務所を訪ねることにしたのだった。


朝、試験を受けて、バタバタしていたこともあり、事務所に到着したのは11時半ごろであった。

もう何度も来ているので、勝手知ったる私は、受付のおじちゃんにパスポートをちらりと見せて「OCIの件で、予約してあるの」と言い、まっすぐ部屋に向かった。

ドアの前に着くと、部屋の前には数名が待っており、中にも何名かがいた。
コロナになってからは基本予約制で、その時間枠でインタビューしたり、生体認証のデータを取得したりと手続きを進めている。

私は「今日訪問する」ことだけを決めてきているのだが、どうすればいいか・・・、と考えていると、背の高い男性がやって来て、「案内しますので、皆さん待合室でお待ちください」と、待合室で待つように指示された。


待合室は冷房が聞いていて、思わずほっとしてしまう。
今のインドはモンスーンで、気温はそれほどでもないのに湿度の高さに辟易してしまう。

椅子に座って待っていると、誰かが大騒ぎしながら入ってきた。

「どうして・・・?私・・・じゃないのに、・・・が・・して、仕方なかったじゃない!!!それなのに強制送還なんて信じられない!!」

訛りが独特なのと、興奮している事と、泣き出してしまっているためにすべて聞き取れないが、どうやら本人のせいではないのに、強制送還になってしまったようだ。

自分の後ろから聞こえてくる声なので、わざわざ振り返って見てもいいのか分からないが、全神経は既にそちらに持って行かれてしまった。暇つぶしにスマホを出していたが、全く何も頭に入ってこない。

待合室はそれほど大きくないし、仕切りも無いから、この女性の声は全員に聞こえていて、全員、目が釘付けであった。

詳しい事情は分からないし、多分何も助けてあげられないのだろうけども、何かかわいそうな気がする。

私は今まで「インド人の配偶者」と言う立場でインドの生活をエンジョイしてきたし、日本のパスポートの信用度は高く、それにも守られてきた。
でも、海外で暮らすという事は、何かを間違えると、「そこに存在することすら罪」になるのだ、といつも思う。

私が呼ばれて、待合室を後にする頃は、彼女も涙は収まっていた様だった。
これからどうするのかは分からないが、彼女にもっといい人生が待っているといいと願った。


再び部屋に着くと、「名前は?今日の要件は?」と聞かれたので簡単に説明すると、合点が言ったようで、「書類は今日持っている?」と聞かれた。
昨日の夜から、封筒に入れて準していた判決文を見せて、自分の見解を話すと、「じゃ、こっちに来て」と別の部屋に連れて行かれた。

この係員とは何度か顔をあわせており、顔見知りだ。(少なくとも私はそう思っている、笑)なので、廊下を歩きながら、「なんで離婚しちゃったの~。悪い旦那だったの?」と聞かれても別に嫌な気分ではなかった。
ただ、自分の気持ちを正確に伝えると長くなるので、「短気で、怒ると手が付けられなくて・・・」と答えておいた。

離婚の理由は、大体、一つだけではなく、一言で伝えるのが難しい。


さて、別の部屋に連れて行かれた私は、OCIカードの申請ではなく、他の案件も扱っているであろう部屋に通された、

「じゃ、こちらの係長(多分、笑)に、相談してね」と、言われ、背の高い初老の男性と机を挟んで向かい合わせに座った。
「で、用件は?」と聞かれたので、「離婚が決まって・・」と話しつつ、判決文を提示すると、それを引き寄せて読み始めた。

しかし、1ページ目をめくったところで、文字が小さかったのか
「おい、XXX!、ちょっとこの対応お願い」と別の人に丸投げしてしまった。なので、私は隣の机に移動して、また同じ質問を繰り返しつつ、判決文をすすす・・と示した。

今回は一通り判決文を読み、「で?相談はどんな事?」と聞くので、
「離婚は決まったけど、親権については決まっていないので、離婚は完全には終わっていないと解釈している。だから、返還はその後でいい?」と聞いてみた。

すぐさま「No」と言われた時の為に、切り替えしの質問を用意していた私は、「そのままOCIカードを継続して持ちたいか?」と聞かれ、予想外の質問に驚きつつ「それは・・・可能なの?」と逆質問してしまった。

その部屋は、机が2台あって、同時に2組まで相談できるようになっている。
その奥には、机が向かい合わせに6台程置かれており、他の係員がそれぞれ処理を進めている。

私の対応をしてくれた係員は、後ろを向いて他の係員に聞いた。

「おい!なんだっけ、あの件、離婚したけどOCIカード返還しなかったケースあるだろ」

「あ~あの奥さんがロシアの人の件?・・が・・で・・・・だったやつ」
(ここからヒンディー語が難しく分からなかった)

「離婚=即返還」しか頭になかった私は、意外な選択肢に驚くも、それが可能ならばこれ以上嬉しいことはない、とドキドキしながら待った。

複数でファイルを確認したり、上司の電話が終わるのを待って確認したりしながら、結論が出たようなので、両手を握り締めて結果を待った。

「残念だけど、離婚が決まったらOCIカードは返却しないといけない。継続して持つ方法はない。」

あ~、そうだよね。うん。分かる。

残念ではあったが、覚悟していた事なので、それほどがっかりはしなかった。

OCIカードを返還しなければならないのなら、
次は「後、1カ月でいいから返還を待ってもらえるか?」を聞いた。

係員は上司に確認すると、その上司は私に向かって言った。

「返還する時期はあなたが決めていい。この判決文と申請書をもって、正式に返還に来たら、我々はそれを受け入れる」

え、OKなの??

「来月日本に一時帰国するけども、入出国もこのままで可能?」

「いい。」

やったー!!!これで、当面の希望は叶えられた。今日はこれで十分だ。


嬉々として帰ろうとした時に、隣の机の相談が聞こえてしまった。

「息子の名前を変更したからOCIカードもそれに合わせて変更したいんです。」
「いや、それはできない」
「今までは、XXXと言う名前だったけど、今回変更して、パスポートも更新したから、OCIカードの氏名と一致していないといけないでしょ?」
「いや、できないんですよ。。」
「どうして?名前が一致していないとおかしいじゃないの⁉」
「氏名の変更はインド政府が許可していない。だから我々もそれを受けることはできない」
「だって・・・」

まだ高校生ぐらいの息子の名前が変わる、と言う状況があまりよく理解はできないのだが、どうやらこの人たちも不満を抱えつつ帰ることになりそうだ。

今回は自分の希望通りになって、私は大満足で帰れるが、
待合室の女性や、この親子の様に、
言い争いの上、悔しい思いを抱えて帰る人も多いのだろう。
お役所とはそういう所だ。
法律で許可されている事以上はできない。

まあ、そんな私も、今回はラッキーだっただけで、
OCIカードの申請の時に散々な目に合っている。
書類を揃えて出直しだっただけなので、
彼女たちの大変さとは比べ物にならないが。


ビザの心配をせずに帰国できることも分かったし、
区切りをつけて仕事を続けることができることも分かった。

上司に報告が終わったら、まずはチケットを押さえよう。

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