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ケチったことで失うもの

最近、友人の知り合いが突然クビになったと聞いた。

インドでもそれなりの規模の企業だと、解雇するにも社内規定があり、突然クビになる事はかなり珍しい。(ちいさな家族経営や、ブラック企業ならともかく)

友人が聞いたところによると、突然呼び出されてその日のうちに解雇となったそうだ。企業側も事前通知が無かったことを考慮し、その月の給与は支給されたとの事であった。



この人は優秀なエンジニアだったらしいが、それならば、なおさら何か理由が無いとそんな突然の解雇はおかしい。インドでも優秀なエンジニアは需要が高い。

友人の話を聞ききながら、そんなに急にクビを切れるものならば、昔、うちのチームにいた窓際族を即クビにしたかったわ・・・、などと心の中でつぶやいてしまった(笑)

(注:窓際族とは、今年の初めまで一緒に働いていた同僚の私だけの呼び方。あらゆる手段を使ってずる休みをし、仕事も自分がしたいと決めた以上の事は絶対にしないという、スキル以前に人間として問題ありだった。。。)

そこでよくよく聞いてみると、どうやら、社員の福利厚生の一環として還付されるwifi料金の請求の為に、自分のではなく兄弟の物を提出していたのだそうだ。それが社内監査で引っかかり、今回の解雇となった。

月々の生活にかかる支払いについて、会社の補助を受けられるならもちろん助かるが、それでは一体いくらぐらいの還付金になるのか?と言うと、たったの700~800ルピー(せいぜい、1,500円程度)ぐらいであったらしい。

え。。。たったそれだけの為に、解雇されたの?

確かにその金額に対する罰則としてはかなり厳しい様に思えるが、私が言いたいのは、「たったそれだけのお金を、ズルしてまで会社からもらいたかったのか?」である。その程度のお金をちょろまかして、解雇になっては意味が無い。

その上、失うのは仕事だけではない。

その小さな金額をちょろまかした事で、失うのは自分の信用だ。
幸い、会社側も大事にはしなかったようで、解雇の理由は、本人とごく一部の人だけ(恐らく直属の上司などの)に知らされているようだった。そのような配慮があったとしても、不自然な突然の退職は本人にとってもマイナスになる。

私だったら、還付の要件が不明瞭な場合、そもそも請求しない。
きちんと理解していない状態でこの程度のお金をもらった結果として、今回の様な事態が起こるかもしれないからだ。
(還付の対象である事が明確に分かっていればもちろん手続きはする。)



そうは言っても、この人も結婚しているらしく、突然の解雇に家族はショックだろうなあ、とちょっとかわいそうにもなった。

ずっと前の事だが、私も突然の解雇通知をされて、その日のうちに退職になったことがある。

今思えば、そのしばらく前から、解雇になりそうな要素はあったのだが、当時は「何とかなっている」と思い込んでいたので、やはりショックだった。

まだ日本に住んでいた頃の事で、その時はまだ子供も小さく、元夫からの収入も不安定(不安定と言うか、収入無しみたいな状態だった)だったので、楽しくもなく高額な給与でもないこの仕事に必死にしがみついていた。

解雇の原因は私が起こしてしまった大きなミスだった。

だが、その数か月前から、仕事に集中できていなくて小さなミスを繰り返していたのを、社長はちゃんと見ていたのだ。(小さい会社だったので、同じフロアに社長がいて、全員の顔を見れる状態だった。)

なぜ仕事に集中できなかったかと言うと、その頃ずっと、家では元夫とケンカばかりで、精神的に疲弊していたからだった。



当時、自分の個人事業(元夫が一人で事業していた)を推進したかった元夫は、無料で日本語が分かる安い人材として、私に仕事を辞めて事業を手伝う様に何度も言っていた。(インドでは家族の為に手伝うのは当然だと言う考え方があると思う。)

だがそれは話し合いと言えるようなものではなく、「月収20万円程度の仕事にしがみついているなんてばかげている。仕事を辞めて俺と一緒に事業に参加すればもっと稼げるのに。」と、仕事を辞めない私を一方的に責める口調だった。

一方、私は、高額な収入ではない事は理解しているが(月収20万円どころか、都内で家族4人で収入は18万円と、極貧レベルだった)、月々決まった収入がある状態をどうしても手放すことができなかった。

手取りは少ないが、家賃を払えて、保険にも家族全員分加入できる。フルタイムで仕事をしているからこそ、保育園なども利用可能なのだ。給与以外の、目に見えない保証や福利厚生の事を、元夫は理解できなかったのだと思う。そんなの、稼げばいいんだから、大した事無い、と思っていたはずだ。

家事をして、子供たちの保育園・学校の送り迎えをして、フルタイムで仕事をして家に帰ると、不機嫌な(元)夫が家で待ち構えている生活は、ある意味地獄だった。そして話し合いからも逃れる事ができない。

元夫の主張は理解できるが、会社を辞めて事業の手伝いをした場合、日々の生活を支える貯金も無く、事業の手伝いをすれば「必ず、すぐに、定期的に」高収入が得られる確約があるわけでもない。小さな子供二人を抱えた大黒柱の私は、たとえスズメの涙の様な給与であっても「会社を辞める」選択をすることがどうしてもできず、しがみついていた。

毎日ケンカしてお互いが不機嫌な状態が数か月も続き、徐々にそれが仕事にも影響してきたのか、小さなミスを連発する様になり、最後にはかなり大きなミスをしてしまい、即日解雇となってしまった。



今となっては、そんな強制終了があったからこそ、結果的にインドに流れ着いたのだとも思うので、解雇されたことはチャンスでもあったし、起こるべくして起こったのだと理解もできる。

ただ、この一件で、元夫と「建設的な話し合い」をすることは難しいことも経験として理解した。

ケンカしている時はずっと「会社員である事にしがみついているお前は間違っている。」と一方的に責め立て(しかも言い方がねちっこい)、「がんばれば大丈夫」と精神論を主張するばかりで、論理的、具体的な数値を基にした話し合いではなかったからだ。

もちろん、私もまだ未熟だった為、冷静に前向きに話し合いに望めていたのか?と聞かれれば、そうではないと思うし、それは反省している。

今だからそうプラスにとらえる事ができるし、冷静に考える事ができるが、当時は日々食べていくのに必死だったので、解雇が分かった時は絶望的な思いであったことを、友人の話を聞いて思い出したのだった。



そんな自分の経験から、ちょっとだけこの人に同情した私は、転職活動をはじめたこの人に、(友人を通して)できる限りの情報を提供した。

この人は本当に優秀なエンジニアだったらしく(笑)、「不正請求による解雇」と言う事実を隠してしまえば、大して苦労することも無く、すぐに次の仕事が見つかった様だった。

次の仕事がすぐに見つかったのは、もちろん喜ばしいことなのだが、ちょっと残念な気持ちになってしまったこともあった。

私は今回の転職でかなり給与を上げてもらい喜んでいたのだが、この人は、私のその「かなり上げてもらった給与」よりもずっと多くもらっていた事を知ってしまった。

それを聞いて、「え!そんなにもらっているのに、700~800ルピーをケチっていたのか。。。」とモヤモヤを抑えられなかった。

聖人のごとく(一つも悪い事をした事が無い)人間など存在しないだろうが、こんなちっさな事をしている人でも、そのことを知らなければ、「優秀な人材」として扱われるのだと思うと、なんとも理不尽な気持ちだった。

「正直者はバカを見る」と言う言葉があるが、この世の中がそうではない事を願うのだった。


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