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Interview with 春ねむり (日本語版)

(top photo by JEANIE)

2020年の当店のベストセラーをnoteで書いていますが、こちらの記事でも紹介していている春ねむりの『Lovetheism』という作品があるのですが、ハードコアパンクとは違う音楽性だけど彼女の思想、姿勢、そして海外シーンのフェミニズム文脈と並走しながら現代のJ-POPから逸脱していく音楽性はどこか共鳴するものがあると思います。今回ふとしたきっかけながらインタビューが実現しました。

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「思想や音楽で自分が影響を受けたものの本質の文脈を捨てずに、現代に必要な新しい音楽で在りたい」

3LA: 
僕自身、春ねむりさんの活動歴や過去作品については名前くらいは知っている、海外では評価されているんですよね?という程度で、失礼ながら他のライターの方のように詳しいわけではないので、もしファンの方がこのインタビューを読んだときに「今さらそんなこと聞くなよ!」って思う質問もあるかもしれないですが、この"全然ファンでもなく過去作も追ってなかった人間"としてのインタビューも別の意味で面白いかもしれない、と思うのでそういった感じでこれまでとは違うインタビューに出来たらいいなと思っています。

(読んで良かったのでリンク貼っておきます。: <インタビュー>春ねむりが語る「愛」と「祈り」と「怒り」を込めた新作について (柴那典さんの記事)

春ねむり(以下、春):
このたびはありがとうございます!よろしくお願いします。

Q:
『Lovetheism』を入荷したのはふとしたきっかけの偶然でしかなかったのですが、届いたレコードを聴いてみたら想像と違っていました。アイドル的な音だったらどうしようと思っていたら、全然イメージと違うぞとなって、すごく意表を突かれたというのが正直な感想です。前作『春と修羅』を聴いてみたら、こちらのほうは日本的だしロックバンドなスタイルだなと思いました。突然少年とコラボしているのも象徴的だなと。
この違いは何なのかなと考えていたんですけど、前作よりも圧倒的にリズムとビートが変わったんだと思うんですが、そのあたりは意識していますか?

春:
ライブをやりながらだんだん自分が気持ちがいいノリとか自分が踊りたいビートを身体で体感し理解しだしたことが大きいかもしれません。曲作りをパソコンでやるんですが、気がついたらMIDI鍵盤を弾きながら身体でリズムをとってつくるようになってました。あとは、自分自身の自我のゆらぎのようなものが成長と共に少なくなってきたというか、変質を恐れない性格に変わってきた(それはコアとなるものに確信を抱けるようになったということと比例しているような気もします)ことが、全体的にビートやリズムの重厚感や強さ?を求めるようになったこととも繋がっていると思います。

Q: 
迷いがないというが、どストレートで太く鳴らしているような印象です。2020年に予定していた北米ツアーはキャンセルになったと聞いていましたが、本作の『Lovetheism』以降ではまだ欧米での公演は行っていないんでしたっけ? このビートの違いなんかは『春と修羅』期とは違う音の響き方になるだろうし、ライブでの受容のされ方もまた変わってきそうです。
そして、『春と修羅』が日本国外のメディア、シーンでも評価されたことによりファンベースも変わってきたと思うんですが、そういったことが楽曲制作に影響している面はありますか?

春:
『Lovetheism』以降は欧米でのライブはまだしていないので、ライブするのがほんとうに楽しみです!
楽曲制作における影響と言えるかどうか微妙なところなのですが、国外にファンのひとや友だちがいたりすることで、世界の状況に意識が向くことが増えました。意識していることは、逆に、洋楽っぽさとか流行りのサウンドに寄せすぎないことかもしれないです。

Q:
(当店の) お客さんから「前作のほうがロックだ」って意見ももらって、「なるほど確かに」とも思ったんですが、逆に『Lovetheism』のほうが前述したようにビートとサウンドが刷新されたという点において、J-POP的な価値観から逸脱しており、こちらのほうがより踏み込んだ作品になっているんじゃないかと感じました。これは勝手に僕が思っている感想なんですが、それがなければ自分が売るわけにはいかないなとも思った点です。
ご本人的にはそういった「逸脱」とかって作品作りにあたって意図しますか?

春:
「ノリ易さ/聞き易さ」と「エッジイさ/キッチュさ」がうつくしい形やバランスで同居しているかどうかは、一曲単位でもアルバム単位でも考えていて、後者の要素が「逸脱」的なものにつながっているかもしれません。また、完全にJ-POPたらしいものをつくろうとするとそれが「いままでにこの世になかった曲ではない=つくる甲斐がない」と思ってしまうので、どこか気持ちの悪い部分や違和感のある要素を追加しがちな気がします。思想や音楽で自分が影響を受けたものの本質の文脈を捨てずに、現代に必要な新しい音楽で在りたいという気持ちも強いです。

Q:
「いままでにこの世になかった曲ではない=つくる甲斐がない」とのことですが「現代に必要な新しい音楽」って、果たして世の中に必要なんでしょうか?

春:
社会が成熟するためには思想がどんどんアップデートされていくことが必要だなと思うので、音楽も同じようにそうだと思います。

Q:
パンクミュージックは自身の音楽的なルーツに関係あったりしますか?

春:
ロキノン以外の音楽を詳しく聞くようになってはじめに自分が傾倒したのがオルタナティブロックやポスト・ハードコア、アートパンクだったので、そこから溯ってハードコアやパンクも聞くようになりました。パンクバンドはクラッシュがすきです。

Q: クラッシュ意外でした笑
話ずれちゃうので深堀しないほうがいいと思いますが、理由も一応教えてください!

春:
反権力・反体制・反マジョリティがパンクなのではなくて、虐げられているひとや被っているひとにやさしいことがパンクなのだとわたしは思っていて(それが結果的に反体制や反権力、反マジョリティ的なものに発露することは多いですが)クラッシュはそういう音楽だと感じます!

(ぜんぜん違うけど2つのRIOT)

Q:
前作と比較してもうひとつ気になったのが"DIY感"です。サウンドの印象から、おそらく自分自身で編曲しているんじゃないかなと思うんですが、作曲や編曲について自分で作っていますか? そして『Lovetheism』で構成されている和声(ハーモニー)については、過去作にはない要素がたくさんあります。そして”誰にも似ていない感じ"があって、どこに影響受けているんだろうと思いました。
作曲や楽曲アレンジについて体系的に学んできた経験などはありますか?

春:
前作も今作も作曲は全て自分自身で、曲によってアレンジャーさんが居たり居なかったり自分で行ったりするのですが、ボーカルラインに加えて主要なリフやビート、コーラスワークについてはデモの時点で存在することが多いので編曲にもコミットしていると言えると思います。

和声についてはおそらく自分はとてもこだわりが強い方だと思います。ギターを弾けないためデモ時点では打ち込みの状態で作るので、アレンジ時にアレンジャーさんやギタリストさんに弾いてもらう時に、本来ギターの弦の位置ではどう抑えても鳴らせないコードとかが出てくるんですけど、一音ずつ別録りしてもらって対応してもらったりします。

作曲や楽曲アレンジについてどこかで教わったりしたことはないんですが、高校3年生時に選択授業で音大受験する子のための基礎の楽典クラスを取っていて、わたしは音大や美大、専門学校は受験しなかったのですが、いまになって役に立つことはあります。あとはコピーバンドをやったり(シンセサイザーを弾いていました)、DTM上で他人の曲を再現する遊びをよくやっていたことが、作曲についてもアレンジについても訓練になったかなと思います。

Q:
制作に関してもう一つ聞きたいことがあったのを忘れていました。「ポエトリーラッパー」という肩書きがあったので気になっていたんですが、ラップ的な押韻はそれほど重視していないのかなと感じました。また、ポエトリーリーディングに関してですが、このジャンルに触れたキッカケ、自身のシグネイチャーとして習得していこうと思ったキッカケについても教えてください。

春:
相対性理論がすきで、そこから不可思議/wonderboyにたどり着いたのがきっかけです。押韻よりも日本語のリズムがうつくしいかどうかが自分的にはめちゃくちゃ大事かも知れません。

自分でやろうと思ったきっかけはほんとうにお恥ずかしい話なのですが、音程をとるのが苦手すぎて、しゃべる感じでならいけるかも!と思ったのがはじまりです。

(不可思議/wonderboy、シンガーソングライター、ポエトリーラッパー。2011年急逝。)

Q:
なんか少し核心部が見えたような気がしました。しゃべりってその人の文化が反映されるその人だけの楽器なんだよなと思っていて、『Lovetheism』も2020年BEST記事で海外メディアで上位にランクインしていましたが、日本語のリズム、その響きが独特なものとして受容されているようにも見えます。
 「音程をとるのが苦手」というのは歌に関していうとアーティストとしては不利というか、致命傷にも成りかねない要素だと思います。でも「これならできるかも」っていう自分の中にある要素、自分が持っているカードを大切に活かして表現していったのが今海外でも評価されるようなシグネイチャーの確立への近道だったのかもしれないですね。(海外ではJ-POP文脈って共有されていないので)
ネガティブな要素をうまいことポジティブに転換していくのもまたパンク的発想だと思いますね。この解釈はいかがでしょうか...?

春:
しゃべりがその人独自の文化によって形成される楽器っていうのはすごくよくわかります!自分的にはほんとうにできることを探してやってきたという感じなので、狙って現在の音楽性やファン層を獲得しました!という感じではないのですが、結果として予想のつかないことって面白いなあと思えるので、よかったのかもしれないです。それと、自分の声や話し方についてはコンプレックスだったのですが、それが逆に特徴になるんだ!と思えたことは、ミュージシャンとしても一個人としてもよかったかなと思います。それがパンク的だと言ってもらえるのは純粋に嬉しいですね。笑

(2021年1月にデジタルリリースされた新曲"bang"のMV。写し出されているのはCOVID-19影響下にあるロサンゼルスの街)

「丁寧にものをつくることで抗っていきたい」

Q:
LP盤をフランスのSpecific Recordingsからリリースしていますが、アナログでリリースするきっかけは何だったのでしょうか?また、このレーベルはアートロックやブラックメタル、ハードコア、そして日本の女性アーティストを何組かリリースしていて、フェミニズム的文脈もフォローしているレーベルであることは知っていましたか?
"RIOT GRRRL"とtwitterのプロフィールに載せているのも見て、このあたりの関係も気になっています。

春:
リリースしたいという連絡をいただいて初めて知りました。

わたしにとってはパンクというイデオロギーは愛と怒り、ひいてはやさしさそのもののことなのですが、それはこの世界や社会で生きていると、フェミニズムと結びついてくるのは必然性があることというかとても自然なことなのかなと個人的には感じます。
記号としての名称をつけることは価値をつけることと直結しがちなので、あまり「春ねむりです」以外の自己紹介をしたくないなと思うタイプの人間なのですが、RIOT GRRRLはクリエイティブを前提としたムーブメントだと思うので、個々人の作品や人生が無数の点と点で連なった「結果としての連帯」であると感じられるところがすきで、それを標榜することによって生まれる不自由やバイアスとは共生したり戦ったりするエネルギーを自分が使うことができると思える、数少ない「名前」だなと思います。

Q:
それは、そう感じるほどにこの世界、社会に問題があり、そしてそれが女性として生き方や権利に直結しているということですか?

春:
そもそもまず権力をもたない人間が生きづらい世界だなと思うし、女性というジェンダーに対する社会構造による差別もそういう類のものだと思います。男性というジェンダーに対するステレオタイプもなくなってほしいしLGBTQというジェンダーへの理解も正しく深まる社会であってほしいのと同じように、女性という性別で差別されることがなくなってほしい、と思うとき、フェミニズムは現代に必要な思想だと思います。人間がつくるものなので社会は常に問題を内包すると思うのですが、それにひとつひとつ向き合う必要があるなという感じですね。

Riot grrrlは、元々は1990年代初頭にワシントン州オリンピアと太平洋岸北西部のアメリカ国内で始まったアンダーグラウンド・フェミニストのパンク・ムーブメント。詳しくはwikipedia参( https://en.wikipedia.org/wiki/Riot_grrrl )
"RIOT GRRRL"については、このインタビュー内で説明するには文量が足りなすぎる。ただ日本語テキストは調べればいくらでも出てくるので自分で調べてください。(例: https://www.cdjournal.com/main/research/-/1980)

Q: "RIOT GRRRL"について、「結果としての連帯」というのは、自分のリリースした作品と同じようなエネルギー、質感、メッセージとの共鳴を、別の誰かの作品からも感じることがあるということですか?(それは音楽に限った話ではないのかもしれないですが)
もしよければ共鳴するアーティストなども教えて欲しいです。

春:
同じようなメッセージというよりは、自分とは違う種類の「孤高さ」みたいなものに自分自身が勇気づけられることが多いです。大森靖子さんがすごくすきなのですが、自分自身の世界が他人に共感されずともその他人と共に生きることはできる、というスタンスがすごくすきですし、傷ついたことや苦しみをなかったことにされてしまうことが生きているとよくあると思うのですが、それをなかったことにさせない気持ちがすごく強くて、すきです。大森靖子さん自体は社会運動とかにコミットすることにあまり意味を見出さないタイプなのかなと思っていて(インタビューとか見ると)でも結果として大森靖子さんの音楽が現在の自分をつくる要素のひとつであるように、「結果としての連帯」はあらゆるところで生じうるものかなと…。連帯することはどうしても社会が変わるタイミングで必要になってくるとは思うのですが、連帯を前提に物事が動いていくことに生理的な嫌悪感があるので、純然たる個としてそこに存在してくれることによって自分ははじめて交わることができるなと思います。(実際の交流とかではなく)

Q: ちょっと曖昧な話になりますが、自分の音楽が不特定多数のリスナーに届いて欲しいという想いは、あんまりなかったりしますか?

春:
万人に好かれるタイプではないなというのは人間的にも音楽的にももちろんありますね…。笑

届くべきひとや出会うべきひとにきちんと巡り会いたいと思うとき、そのために知名度というものが必要になってくるとは思うのですが、それ以外の理由で不特定多数の人間に自分を知ってほしいと思ったことはないので、欲求に優先事項をつけるとしたらあんまり上位には入ってこない種類のものかなと思います。また、ポピュリズムと資本主義的価値観が行き過ぎた極地が、数で優劣がつく社会だと思うのですが、現代社会はそうなりつつあるのかなと感じていて、丁寧にものをつくることで抗っていきたいなと思っています。
(END)

Lovetheism : 春ねむり (Haru Nemuri) (LP)

Text by Akihito Mizutani (3LA -LongLegsLongArms Records-)
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3LA -LongLegsLongArms Records-
web: http://longlegslongarms.jp/
bandcamp: https://longlegslongarms.bandcamp.com/
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(photo by koki)
春ねむり
【プロフィール】
横浜出身のシンガーソングライター/ポエトリーラッパー/トラックメーカー/プロデューサー。
2016年、うたう最終兵器「春ねむり」としてデビュー。自身で全楽曲の作詞・作曲を担当する。
2017年、ミニアルバム「アトム・ハート・マザー」をリリースし、「タワレコメン」へ選出。夏には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017」出演の他、映画「; the eternal /spring」の主題歌を担当、資生堂の医薬品リップクリーム「モアリップ」のWeb CMに出演等、様々な分野で活動の幅を広げる。
2018年、1stフルアルバム「春と修羅」をリリース。ストリーミング再生回数は既に800万再生を超える。アメリカ最大の音楽評価サイト“RATE YOUR MUSIC”で2018年のアルバム作品として世界30位、”AOTY (Album of The Year)”で世界20位にランクイン。これは日本人のアーティストとしての最高位となる。

2019年、マレーシア・台湾の大型ロックフェスへ出演し、3月からは香港・上海・北京・台湾・日本と、アジア全5ヵ所を回るツアーを開催。6月にはヨーロッパを代表する20万人級の巨大フェス「Primavera Sound」に出演のほか、6ヵ国15公演のヨーロッパツアーを開催し、多数の公演がソールドアウトと大盛況で幕を閉じる。
2020年1月、「ファンファーレ」 3月、「Riot」を立て続けにリリース。そして2年ぶりとなるオリジナルアルバム 「LOVETHEISM」を完成させ、全3本をマイナス30度という極寒のロシアで撮影したミュージック・ビデオと共に海外リスナーからポジティブな反応が続出。6月にはフランスのレーベルより新作アルバムのアナログ盤リリース、カンヌで開催された世界各国の新進気鋭のアーティストを紹介する『Midemタレント・エクスポーター』に日本人として初選出。

2021年1月、最新作「bang」をリリース!そして、自身初となる北米ツアーの開催が決定している。

これが新世代のジェイポップ、こころはロックンロール。

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