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雑穢 #1015

雑穢とは、実際に体験した人の存在する、不思議で、背筋をぞっとさせるような、とても短い怪談の呼称です。今夜も一話。お楽しみいただけましたなら幸いです——。


 愛知県名古屋市天白区にあるファミリー向け賃貸マンションでの話だという。
 夜、二階にある自室のベッドで仰向けになってスマホを眺めていた。
 部屋の蛍光灯は点けっぱなしである。
 すると突然どこからともなく、サッ、サッという壁紙を刷毛か何かで掃いているような音が聞こえてきた。
 何の音だと思って、そちらの方を向くと、男の手と思われる手首から先だけが空中に浮いて、その指が壁をリズミカルに撫でている音だった。
 一体これは何を見ているのだろうと唖然としていると、目撃したのを悟られたと思ったのか、その手が空中をこちらに向かって速度を上げながら移動してきた。
 慌てて上半身を起こそうと思ったが、間に合わずに、手は頭と壁の隙間を駆け抜けるように通過していき、壁に吸い込まれるようにして消えた。
 翌朝、家族に変なことがあったと、体験したことを伝えると、「お前のところは手だったか」と、さも当たり前のように言われた。
 既に両親のところには脚が、姉のところには手が出ていたらしい。
 そこから引っ越すまでに、身体のパーツは時々目撃されたが、家族の誰も首から上は見たことがなかったという。

次の話


雑穢

note版雑穢の前身となるシリーズはこちらに収録されています。一話130文字程度の、極めて短い怪談が1000話収録されています。

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