見出し画像

雑穢 #1012

雑穢とは、実際に体験した人の存在する、不思議で、背筋をぞっとさせるような、とても短い怪談の呼称です。今夜も一話。お楽しみいただけましたなら幸いです——。


 まだ小学校低学年の頃の話。
 夜、寝る時が来るのが憂鬱だった。寝ていると、時々足首を掴んで布団から壁側に引きずられるからだ。
 月に二、三度は、そうして眠りを邪魔される。
 寝ている部屋は、小学校に上がってから与えられた子供部屋で、もちろん他の家族はいない。何度室内を確認しても誰もいない。
 布団は母親によって、六畳の部屋の真ん中に敷かれている。右手側に西へ向いた窓があり、頭の側にはドアと勉強机、左手側には押し入れがある。足の側には壁しかない。その壁に向かって勢いよく引きずられるのだ。
 毎回畳と擦れて、肌が焼けるように熱くなる。慣れるものではない。
 引きずられるたびに、両親の寝室に逃げていき、もう一人で寝るのは嫌だ、誰かが足を引きずるから怖いと涙ながらに訴えるが、毎回母親はにっこりと微笑んで、それは夢だから大丈夫よと言うのだった。
 ある時、引きずられた時に、布団をめくって自分の足首を掴んでいる者の正体を確認した。
 力強く握る細い指の付け根に光っていた指輪は、確かに母親のものだった。

次の話


雑穢

note版雑穢の前身となるシリーズはこちらに収録されています。一話130文字程度の、極めて短い怪談が1000話収録されています。

二次利用と使用報告に関するお願い

神沼三平太『千粒怪談 雑穢』及び本作『本当にあった不思議な話 雑穢』では、作品出典を明記すること 及び、使用報告を条件として、個人が収録作を脚色してのリライ ト、朗読、小説化、コミカライズ、その他の二次利用を行うことを許諾しています。 収録作品の利用に当たっては以下の報告フォームから、使用報告をお願いします。これは不正利用の嫌疑から利用者を守るための手続きであり、報告された内容がそれ以外の目的で使用されることはありません。 また、フォームから登録したことで、以下の使用条件に合意したものとします。

 ・収録作品をリライトなどの加工を行わずにそのまま転載する
  ことはできません。
 ・収録作品を出典の明記なしに使用することはできません。
 ・収録作品の著作権は神沼三平太に帰属します。
 ・収録作品を元に制作された各作品の著作権は、それぞれの制
  作者に帰属します。

なお本作については、それぞれの当該作品のコメント欄にての報告も、以上の使用報告に準じるものとします。

サポートよろしくお願いします。頂いたサポートは、怪談文化の発展のために大切に使わせて頂きます!