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雑穢 #1016

雑穢とは、実際に体験した人の存在する、不思議で、背筋をぞっとさせるような、とても短い怪談の呼称です。今夜も一話。お楽しみいただけましたなら幸いです——。


 従兄が亡くなった時の話だという。
 その従兄とは面識がない。彼は、自分が生まれるよりも前に、まだ七歳という若さで急死したからだ。その時に、不思議なことが起きたのだという。
 伯父の言葉によれば、従兄が亡くなった時に、彼が幼い頃によく遊んでいた、おもちゃのレジスターが、繰り返し音を立てたらしい。
 買い与えた時からのお気に入りで、ボタンを押すと、値段を読みあげたり、色々な声を出すという機能がある。ただ、もう遊ばなくなったので電池は抜いてしまっていた。
「ありがとうございました」 
 真っ暗な部屋の中で、微かにそう声が響いた。最初は何の声か分からなかった。
「ありがとうございました」 
 息子の部屋の押し入れからだ。気になったので、音の源を探した。
「ありがとうございました」 
 声は、亡くなった息子が、ずっと大好きだったレジスターのおもちゃからだった。
「ありがとうございました」 
 電池を抜かれたレジスターは、朝日が差し込むまで、まるで今までお世話になったことを感謝するかのように、そう声を発し続けた。

次の話


雑穢

note版雑穢の前身となるシリーズはこちらに収録されています。一話130文字程度の、極めて短い怪談が1000話収録されています。

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