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雑穢 #1020

雑穢とは、実際に体験した人の存在する、不思議で、背筋をぞっとさせるような、とても短い怪談の呼称です。今夜も一話。お楽しみいただけましたなら幸いです——。


 母親が買い物に行っている間、留守番をしていた。アパートの鉄階段を誰かが足音を立てて上がってくる。一人ではない。三人組の足音だ。
 足音はドアの前を通り過ぎ、廊下を奥に向かった。黒い人影が磨りガラスの向こうを通り過ぎていく。奥の部屋に住んでいるお爺さんにお客さんなのだろう。
 すぐに次の足音が階段を上ってきた。また人影が奥に向かっていくのが見えた。
 三回目。四回目。五回目の足音で不自然に感じた。
 奥の部屋も間取りは一緒のはずだ。そこに十人以上が押しかけていることにならないか。そしてドアを開ける音も、会話する声も聞こえない。
 また足音が聞こえた。その直後、携帯電話に「出て来れる?」とメッセージが届いた。
 母親からだろう。買い物の途中で何かあったのだろうか。いつも持ち歩いているサコッシュを肩から掛け、ドアに向かおうとしてギョッとした。
 磨りガラスの向こう側に、黒い人だかりが溢れているのが見えた。顔に当たる部分も真っ黒で、全身タールでも塗りたくったようだ。
「出て来てよ」「早く出て来て」「早く早く」「急いで」
 急かすようなメッセージが立て続けに入ってくる。
 そして三人組の足音が階段を上ってきた。それはもう奥には行かなかった。

次の話


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雑穢

note版雑穢の前身となるシリーズはこちらに収録されています。一話130文字程度の、極めて短い怪談が1000話収録されています。

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