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劇団チョコレートケーキ『ブラウン管より愛をこめて -宇宙人と異邦人-』

劇団チョコレートケーキ『ブラウン管より愛をこめて -宇宙人と異邦人-』
作:古川 健
演出:日澤 雄介
出演:浅井伸治、岡本篤、足立英、伊藤白馬、清水緑、青木柳葉魚、林竜三、緒方晋、橋本マナミ
劇場:シアタートラム
観劇日:2023.7.9 14時~

1990年、バブル景気に沸く日本。
特撮ヒーローものを制作する会社の企画室。20代30代の若手クリエイター中心に番組の脚本会議が行われている。
少年時代、特撮巨大ヒーローのシリーズに熱中した経験のある彼らは、自分たちの仕事が所詮は過去の名作の焼き直しに過ぎないことに忸怩たるもの感じながらも、半ば先行の名作の後追いになるのは仕方ないとあきらめている。
そこには、本来は大人向けの番組を作りたいという屈折した思いもある。
そんな覇気のない会議の中で、一人の脚本家があるシリーズで放送された異色エピソードを話題にする…

劇団チョコレートケーキウェブサイトより

「差別」という大きなテーマがストレートに取り上げられており、観た後に考えたことをシェアしたくなるような作品。かつ、クリエイターの人たちの「面白いものを作るんだ」という矜持ある姿が演じられており、かっこいいなと思えるような作品だった。

「悪意なき」差別を目撃する

劇中劇『ワンダーマン』の監督である松村和也(岡本篤さん)が、「悪意なき」差別に言及する場面が印象に残った。
松村が、同じ制作陣から、「なんで結婚しないんだ?」「女優と監督が付き合うなんてよくある話じゃん」「まあ職権乱用は感心しないけどww」(大意)的なことを言われる場面があった。これらの会話は、松村が異性愛者であることを前提とした上で向けられた発言だ。

松村にこれらの言葉を発した人物たちには、「悪意」はない。というのも、異性愛者がマジョリティーであるこの世界では、「自分は異性愛者なんだ」ということをいちいち意識せずとも生きていけるからだ。

かれらに悪意はないからこそ、松村が、「悪意のない差別」というのがあるんだよ、と言っても、全然ピンと来ておらず、逆に熱弁する松村を茶化すような態度をとっていた。しかしその瞬間、まさにかれらが「悪意のない差別」の当事者となっていた。
(その後の松村の、「いやいや何でもない!笑」みたいな姿も胸に迫るものがあった。この人はこういう経験を何度もしてきているんだろうな、と思うと・・・)

しかし、このように、目の前にいる人が異性愛者であるとの前提のもと、「彼女/彼氏はいるの?」等の質問を言ってしまったという経験は、少なくない異性愛者にあるのではないだろうか?私も以前、言ってしまったことがあると思う。

「悪意なき」差別についての話題を挙げる渦中で、まさに「悪意なき」差別が行われているという場面の描かれ方が印象的だった。この時点で松村が同性の人と暮らしているという事実は明かされず、終盤で明かされる、という構成も。

差別についての考え方や立場も、登場人物それぞれに異なっており、現実により即しているなあと思った。

みんな、良いものを作りたいと思っているんだぜ

脚本家の井川信平(伊藤白馬さん)と監督の松村とは、井川の原案どおりに『ワンダーマン』15話を作りたいと思っているけれど、実はその動機は異なっていた。井川は差別というテーマをストレートに届けるためである一方、松村は「必ずしも差別を描きたいわけじゃない、でもこれを描かなければ面白くならない、だから今のテーマを変えたくない」というものだったと思う。こんな風に、一見「味方どうし」であるけれど、実はそれぞれに考えがあって、それは必ずしも一枚岩ではない、というのもリアルだと思った。
それにしても、ラストの井川と松村の電話の場面はとても好きだった。

極めつけは、差別を扱うことに反対していたテレビ局の桐谷慶一郎(緒方晋さん)が、権力者としての凄みを見せつつ、それでも、井川に「面白かった」と認めるところも、グッとくるものがあった。置かれた立場ゆえに反対することがあっても、この人も「いいコンテンツを作りたい」との思いを同じくする人なんだなあと・・・。

私の中にも、「子供」がいる

私はあまり特撮についての知識はない(※)のだけれど、それでも、特撮らしい音楽やジオラマを活用して再現された劇中劇の特撮シーンには胸が高まるもの、引き込まれるものがあり、自分の中にも、子供のような気持ちがあるなあ、と認識させられた。
※ただし、前情報で知っていたので、「帰ってきたウルトラマン」第33話「怪獣使いと少年」については少し予習していた。

特にジオラマの活用や光と影の使い方、劇中劇でのボイスチェンジャー(?)の活用など、あまり観劇経験がない私には新鮮なものばかりで、面白かった。

『空から来た男』

劇中劇のタイトルロール、駆け出し俳優の下野啓介役の足立英さん、劇中劇内外での演じ方にとても振り幅があり、特に劇中劇外ではとても純粋でかわいらしく、素敵だなと思った(単に私が足立さんの顔が好みというのもある。笑)。
また、特撮愛あふるる特撮監督の古田彰(青木柳葉魚さん)&AD藤原ゆり(清水緑さん)、振り切ったキャラクターの佐藤信也(浅井伸治さん)、複雑な内面や哀愁のある姿が印象的だった松村、やや小物感のある制作会社の岸本次郎(林竜三さん)、芯のある(往々にして、ことなかれ主義の人には「めんどくさい」とも言われてしまいがち)女優に見えた森田杏奈(橋本マナミさん)などなど、人物が素敵だった。
脚本家の井川役の伊藤白馬さんについては、劇場を出た後、前を歩いていた2人組が「伊藤さん良い声だよねー」と盛り上がっていた。私も同感だった!

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