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「エンターテイメント」と「アート」

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アニメやアートや映画やドラマや音楽やイベントなどについて、書いてきた記事や、これから書いていく文章をまとめていこうと思います。
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記事一覧

きよえちゃん

 神奈川県の厚木市に住んでいる人が時々「きよえちゃん」と言うのを耳にしていた。  あまりにも近い距離感で話しているので、親戚か何かかと思っていたのだけど、ある機会に、それが「いきものがかり」のボーカルのことを指しているのを知った。  吉岡聖恵。確かに「きよえちゃん」だった。  そうやって呼ばれるのも、呼べるのも、すごいと思った。 みゆきとちはる 現在だと、50代以上くらいの感覚になってしまっているのかもしれないけれど、北海道出身者の多くが、「みゆき」や「ちはる」と、ま

『美術はひとを救えるか』---弓指寛治 × 東浩紀 × 上田洋子。ゲンロンカフェ。2024.4.25。

 ゲンロンカフェという場所ができたのは2013年のことだと覚えている。  それは、その年に、自分が厳しい状況にあって、そこで長い時間きちんと話をするトークイベントを見て、さらには当時ゲンロンの社長でもある東浩紀の話す姿を見て、気持ちがいいほどの頭の良さを感じ、それから何度か通った。  そこで、いろいろな人たちが真剣に話をする姿を見ていて、気がついたら考えることが増え、そのうちに気持ちの落ち込みや混乱が少しおさまっているのが自分でもわかった。  それから1年のうち何回かは

千賀健史個展 「まず、自分でやってみる」。アートセンター BUG。2024.3.6~4.14。------「特殊詐欺の背景まで考えさせてくれたアート」

 2度ほど、詐欺の電話がかかってきたことがある。  まだ「オレオレ詐欺」と言われていた頃だったと思う。  最初の電話はわかりやすかった。  携帯もスマホも持っていないので、家の固定電話にかかってきたのは、知らない明らかに若い男性の声だった。  「あ、おれだけど」  「失礼ですけど、どなたですか?」  「嫌だなあ、おれだよ、おれ。オヤジ」  私には子どもがいないから、そのことを告げても、まだ同じようなちょっと軽いトーンで言葉を続けている。  とにかく、私はあなたを知

『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』。国立西洋美術館。2024.3.12〜5.12。-----「未来をかえようとする切実な試行錯誤」

 上野駅を降りてから、上野公園まで出やすくなった。以前は道路があって信号を待つこともあったのだけど、今は改札を出たら、すぐにそのまま公園の中に入っていくように歩けるようになった。  平日に行っても、そこには驚くほど人がいる。などと思っても、当然だけど、自分もその人混みをつくっているのに、そういうときだけ、なぜか、そこにいるのに、そこにいないような気持ちになる。 西洋美術館 駅を背にして歩いて、左側には、東京文化会館があって、その中のイベントに行ったことすらないのに、いつも

「充実した常設展示」-------- 東京都現代美術館。

 美術館に行くときは、その時期に開催されている企画展を目的に出かけることが多い。  だから、常設展は、その鑑賞のあと、心身の余裕があれば見ることになる。気持ちの中で、ついで、といった感じがあって、東京都現代美術館ができた頃も、そんなふうに常設展を見ていた。  建物の隅っこに常設展の入り口があって、そこから歩いて入ると、現代美術の定義の一つといわれる1945年以降の作品が並んでいる。  それは、確かに日本の美術の歴史であって、重要なのはわかるのだけど、2000年代の初頭まで

「ささやかで小さくて、だけど」------『具ささ』。2024.3.2~3.24。青山|目黒。

 この展覧会のタイトルは「つぶさささ」と読むと、ギャラリーのサイトで初めて知った。  もし、文章で使うとすれば、「具に」ということになるらしいし、それは「細かくて、詳しいさま」になるから、「具ささ」という表現が正確かどうかはわからないけれど、おそらくは、細かさ。だけど、その細かさだけではなく、詳しさ、とかも含めた表現なのではないか、といったことを考えてしまう。 キュレーション 最初に目に入ったのはキュレーションした人の名前だった。  遠藤水城。  2017年に栃木県で

『都市にひそむミエナイモノ展』------- 「未来を形にすることの難しさ」。2023.12.15~2024.3.24。SusHi Tech Square。

 美術館に行くと、だいたい少し隅っこのスペース。入り口付近や、トイレに行く時の動線に、他のギャラリーや美術館のチラシが置いてあるスペースがあって、そこで、次の機会に行きたいところを探す。  その中に、いつも使ういくつかのサイトには載っていないような展覧会などもあって、それは思ったよりもいいのか、それとも残念な展覧会なのか、といった邪推をしてしまうけれど、とにかく行ってみないとわからない。  今回も、自分にとっては未知の展覧会だった。 作家名 まず行ったことがない場所だっ

「最愛のかたち」-----「シーナ&ザ・ロケッツ」

 言い訳のような言葉から始めるにはふさわしくないのは知っているけれど、それでも、書くことにちゅうちょがあるのは、私のような少し知っている人間が、もっと熱心に支えたりする人がいるのは容易に想像できる人たちのことを、何かしら語っていいのだろうか、と思うからだ。  それでも、「シーナ&ザ・ロケッツ」の映像を見るたびに感じることがある。 「シーナ&ザ・ロケッツ」 本当のファンとはとても言えないけれど、やっぱりこのバンドのことを知ったのは、他の人と同様に、1979年に発売された「ユ

『豊嶋康子 発生法ー天地左右の裏表』-----「歴史化した蓄積」。東京都現代美術館。2023.12.9~2024.3.10。

 1990年代の末だから、もう25年くらい前のことになる。  豊嶋康子の作品は目にしていて、記憶に残っているけれど、特に印象が強いわけではなかった。 作品の印象 確か、一本の鉛筆の真ん中を削って、そこに両方から芯が出て、それがつながっているような鉛筆がケースに入っている作品だった。それはパッと見ると鉛筆が二本ありそうだけど、一本の鉛筆が、そのような形になって、でも、使えない状態になっている。  それは、学生のアイデアのようなものを形にしていて、誰もができそうで、しかも身

『シナジー、創造と生成のあいだ』------「人間のこころみ」。東京都現代美術館。2023.12.2~2024.3.3。

 コロナ禍以来、見る機会が減ってしまったけれど、それでも、時々、アートを見たくなる。  特に、嫌でもいろいろと考えさせてくれるような現代アートに接したくなるのは、急に興味を持ってから、もう20年以上がたって、その間に個人的には辛い時があっても、そういうときにこそ、アートを見に行き、気持ちがさらに底に落ちるのを支えられた記憶があるからかもしれない。  最初は、美術鑑賞のようなものは、どこか自分と関係のないような優雅なことだと思っていたのだけど、いつの間にか、自分にとって必要

『オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム  ライブビューイング』-----「幸せな時間」。

 オードリーが武道館でライブを行ったのが、2019年、その時に何度もチケットを申し込んで外れた。  それから、時間が流れて、今度は東京ドームでライブが開かれるのを知ったのが2023年。今度は5万人くらいだから、行けるのではないかと思っていた。 抽選 最初に先行抽選が行われたのが、2023年9月23日からで、初日に申し込んで、抽選にはずれた。自分にとって当選することがあるのだろうか、と思った。  妻と一緒に行きたいと思っていて、それでも、当日は2024年の2月で、妻が体調

「有名であることの正しい利用法」-----星野源

 音楽は幅が広く、量も圧倒的だから、興味を持ち始めると、キリがなさそうな印象はある。  それに、耳の良さ、といったことも関係してきそうだから、幼い頃から音楽にあふれる環境でもなかったし、電機メーカーのモニターのバイトをした時には、音を聞き分ける能力を問われる仕事は減っていったし、若い時にはおしゃれな同世代が聞いている音楽のことを知らなかったから、なんとなく、音楽に対しては、ずっと気持ちの距離があった。  だから、音楽産業から見たら、あまりいいお客ではない自覚はある。  

『少女たちのお手紙文化 1890-1940展』------「思いの遺産」。2024.1.20~3.24。町田市民文学館ことばらんど。

 初めて、東京町田市の「ことばらんど」という場所に行った。  そこで、切手デザイナーの講演会があるので、企画展が始まったばかりの時に、行けた。 少女たちのお手紙文化1890-1940展 〜変わらぬ想いは時を超えて 施設は、入り口の印象とは違って、中は広く感じ、階段を上がると、その途中の壁に「最後のお手紙を書いたのはいつですか?」という文字がある。それを見て、確か先週に知り合いに、手書きではないけれど、手紙を書いたことを思い出す。  この企画展がおこなわれた理由も説明され

「切手デザイナーのおしごと」--------貝淵純子・講演会。町田市民文学館ことばらんど。

 図書館に行くと、さまざまなチラシが置いてあるコーナーがあって、本を借りるときに、ほぼ必ず寄る。  そこには、まだ見たことも聞いたこともないような情報があって、だけど、どうしてもタイトルとか、チラシのデザインが目をひくものを手に取ってしまい、重なるように置いてあるすべてのチラシを見る気力がわかない。  その中で、手紙を特集した図書の隣に、チラシのビジュアルが気になって持ってきたものがあった。 「少女たちのお手紙文化」というテーマも興味深かった。  そのチラシを家に持っ