歳差運動2-⑩

何かの意図があるのか、教頭は校長に意見を求めた。

「校長先生、何かありますか?」

校長に締めくくりを求めたというより、俺のことを断罪するための非難声明を期待したように思えた。

「…じぁあ朝の活動の件、原案通りということになりますね。まあ、前任の校長先生からも引き継いでいる計画なのでこのままですよね。読書はとてもいいことだわ…確か法律にも明文化されているし、県教委も積極的に奨めていますから…朝の活動以外にも時間をつくって、子どもたちに本をどんどんと読ませてください」

校長の立場として通り一遍の話だった。  お茶を口に含んだ後

「それにしてもいろいろと意見を聞かせていただいてありがとうございます。種田先生はあえて議論を持ち出したみたいでそれはそれでいいと思います。素晴らしい考えもあるし、いろいろ勉強してるんですね…みなさんも前の年のことに固執しないでよい考えがあったら言ってください」

差し障りのない話に終始した。

それにしても、会議ですら波風を立てているこの厄介な俺をなぜ注意もせず、むしろ持ち上げているのだろうか?

この学校に来る前には校長として職員の情報を仕入れてきているはずだ。俺のことももちろん調べ上げているはず。        予想通り波風を立てる目障りなやつだ、管理職難民になって自暴自棄になってはいないか、面倒を起こさないだろうか、どのように扱えばいい?などとマイナスイメージでやってきたに違いない。その結果、懐柔作戦なのだろうか?

自分もかつて厄介な校長に仕えたときにどう対応したらよいか迷ったことがあった。次のステップを考えていた。管理職など目指さなければ何も気を遣う必要がないからだ。  校長の忠実な僕になってイエスマンに徹するか、嫌なことは目をつぶるが人生観までは犠牲にしないように面従腹背でいくか、それとも自分の信念とアイデンティティを貫き通すか…悩んだ結果、三番目を選んだ。というより自然にそうなった。自分を取り繕うとすることができないからだ。当然の成り行き。 だから、次のステップなどなくなった。これも必然なのだろうよ。

…天見校長の隠れた本性を暴きたくなった。


続く~