見出し画像

【不思議な夢】失敗のつるが❶

「春になったら旅行に行こう!」と冬の間ずっと我慢していた寒がりの私。ようやく春が来たので早速富士山を見に駿河に行く予定を立てたものの、天気予報が雨続きでどうにもうまく行かない。

ここで普通の人なら運が悪いで済ませるところだが、私は幽界に魅せられた狭間の国の民。こんな絶好の不運をただの偶然などという解釈では終わらせない。これはおそらく去年夢に出てきた敦賀の某所で出会った神霊の仕業だと仮定した。

神霊はおそらくあの時交わした約束(一方的な)を私が果たすまで、私をよそに行かせないつもりなのだ。神霊は私をまた敦賀へと引っ張るつもりだ。だから当分私は行きたいところに行かせてもらえない。

そう納得した私は敦賀行きの計画を立て始めた。ところがここでも問題が起きた。せっかく敦賀まで行くのだから、ついでに温泉や恐竜でも見に福井まで足を延ばそう。と思ったらこの計画も上手くいかない。敦賀に行くのは無理なく行けそうだが、その他に行こうとすると妨害が起きる。

もう疲れた…

なんかずっと敦賀に囚われてる気がする。

なんで私がこんな目に…?

ことの起こりは今から十数年前に見た夢の話から始まる。

その頃、私は連日ほぼ休む間もないほどに戦国時代の夢を見ていた。酷い時は起きてる時に戦国時代の映像が見えたほどだ。織田信長公の人生の終盤や、かの人の運命の岐路となった出来事を夢に見た。この夢はそんな中見たものである。

最初に馬に乗って走っている人が見えた。場所は近江国。草原が見える。

馬に乗っているのは信長公だ。なんと伝令兵に変装をしている。家臣たちを戦場に置いて、彼はわずかな仲間たちと戦線を離脱して京に向かっていた。

これは金ヶ崎の撤退戦のときの出来事ではないか?…そんな気がした。金ヶ崎のことを知ったのはこれより少し前だった。以前夢で見たどこかの城を探していた際に、金ヶ崎城やそこで起きた撤退戦について少しではあるが知ることになった。おかしな話だが、私は夢で見た城が実在するのでは?と思ったのだ。

私は『自分が長年戦国時代の夢を見る原因は自分の前世にあるのではないか?』とずっと思っている狂人だ。私は自分の前世を織田軍の関係者だったのではないか?そう思っている。

とはいえ、まさか伝令兵姿で戦場からトンズラした信長公なんてものが、史実であろうはずはない。私は自分の夢を前世にまつわるものとして捉えてはいるが、本当の歴史の話だとは思わない。おかしな言い方だが、並行した別の世界の物語だと思うことにしているのだ。

私が見た夢ではこの時、信長公と共に逃げることになった主要メンバーは松永というイケてるおじさん(見た目は大変上品でカッコいい紳士)と、もう一人男がいた。歳の頃は三十前後と若く見えた。この男、身分が高いのだろうか?態度がやけにデカい。信長公と対等に話す…というよりも、もっと偉そうなくらいだ。

誰だろう?

この偉そうな男の映像を見て最初に浮かんだのは、滝川という織田家臣のことだった。でもすぐ違うと思った。

「いや滝川じゃない、一瞬背格好が似てる気がしたけどあいつはこんな偉そうじゃない。えーーーっと、いけだ…ああ、そうだ!信長公の乳兄弟の池田だ!!…あ、あれ?違うな、容姿が全然違う。乳兄弟の池田はもっと筋肉質でいかつい…」

滝川、乳兄弟の池田と連想して、そのどちらでもない。この二人って親戚だったという説をどっかで読んだことあったなぁ…、池田かぁ…

「えーーっと、でもたぶんこの男の名前は池田だ。池田、池田…」

ネットで調べてみると、金ヶ崎の戦いに織田軍側として参戦した武将の中に池田勝正という人がいるらしい。直感的に「この人だ!」そう思った。

ただし史実ではこの人は信長公と一緒に逃げてはいないようだ。殿軍で戦ったとネットには書かれてある。私が見る夢はあくまで並行世界の夢なので、史実との違いは気にしない。どうせただの夢なのだ。『たぶんこの人だ』ということにして話を進めていく。

この池田という偉そうな男は、家臣を戦場に置いて自分だけ逃げる信長公の後ろ姿を見て呆れたように笑っていた。

松永に至っては笑ってすらいなかった。『部下を危険な戦場に置いて自分だけ逃げるなんて…』という、完全に軽蔑した目で信長公を見ていた。もはや信長公とろくに会話すらしようとはしない。

池田も松永も、自分だって一緒に逃げている状況だが、だからこそだろう。彼らは自分も逃げているのを棚に上げて、信長公を軽蔑した。いや、逃げるのに付き合わされている自分が恥ずかしいからこそ、信長公に怒っていたのかもしれない。

まぁ、この時の信長公は、たしかにカッコ悪かった。なんで伝令兵のかっこしてんねん…

しかし信長公の頭の中の景色は周りの人間とは全く違っているようだった。京まで帰る途中、松永の知り合い?の屋敷に立ち寄ったのだが、信長公は伝令兵のフリをしているので屋敷には上がらず、外で一人地面に座って屋敷で提供された飯を頬張り、次の予定を考えていた。

現在の苦境を覆すため、とにかく一刻も早く京に入ってアレをしよう、コレをしよう…、と考える。信長公は戦場から逃げることを恥だとは思っていなかった。

彼は自分が戦場に残るよりももっと出来ることがあるから京に向かっているのだ。戦は部下たちに任せておけば大丈夫だと信じていた。そして自分も政治では誰にも負ける気がしていなかった。

信長公の心は武士というより政治家だった。彼の戦場は京の都にこそある。彼は京に戻って彼にしかできない政治的な戦いをするつもりなのだ。彼は非凡な政治家だから普通の人とは考え方が違っていた。そのため彼は気付かなかった。

このときのことがきっかけで、池田と松永から、修復不可能なほどの深い軽蔑を買ってしまったということに…

そして愛する家臣たちに不信感を持たれてしまったことに。

これが十数年前に私が見た、信長公のその後の人生を変えてしまった一場面だった。

さて、そんな夢を見た私は同じ頃だったか、もうひとつ気になる夢を見た。

織田軍が上洛して間もない頃だと思う。近江国が見えた。

そこに甲冑姿で馬に乗った男がいた。この男は、信長公の、おそらく父親の代からの古い家臣で、信長公よりひとまわりほど年上だった。

この家臣は武田信玄と内通していた。

この頃、信玄は表向きは信長公と友好ムードを装っていた。しかし裏では信長公を利用して邪魔な勢力を一掃させた後に失脚させるという策略を立て、その準備を進めていた。そんな信玄が目をつけたのがこの家臣だった。

この家臣は劣等感が強く、自分よりずっと若い信長公が成功し名声を得ることに苦痛を感じていた。彼は自分と信長公とを比較して、信長公が偉くなると自分の価値が下がるような思いがした。信玄は、この家臣のそんな心理を読んでスパイを送って近づいた。

織田軍が上洛したばかりで、もっとも信長公が世間から期待と注目を浴びて輝いていたとき、この家臣の劣等感はその眩しさに耐えきれなくなった。そんな彼の心の隙間に信玄はするりと潜り込んだ。

「信玄公は字が下手だなぁ!うふふ…」

ある日、信玄公から送られてきた手紙を見て、この家臣は卑屈な微笑みを浮かべていた。彼は文章の内容や意図を深く読み解くことができない。そのせいもあってか彼には手紙の内容より、字が上手いか下手かが重要だった。

「信玄公より俺の方が字が上手いぞ!うふふ、信玄公もなかなか可愛いとこがあるじゃないか」

家臣は卑屈な優越感に浸ってニヤニヤと手紙を眺めた。字が下手な人間に悪いやつはいない。きっと信玄公は不器用で素朴な人間なのだ。そう彼は思った。

劣等感の強い人間は、自分より優れた人間を見ると敵だと思う。それくらいのことは武田信玄公はわかっていた。だからわざと下手な字の家臣に代筆させ、馬鹿でもわかるような文章を書かせた。信玄公は集めたわずかな情報から人間の性格をほぼ完璧に読んでしまう、心理分析の天才だった。

この家臣はそうとも気付かず、まんまと信玄公の手の内に転がった。そして彼はその後、信玄の指図で何かをした。おそらく一度や二度ではない。何度もだ。

彼が特に何をしたのか、そこまではわからない。ただ一人の男のイメージが見えた。

『浅井長政』という男が。

私はこの家臣が信玄に誘導されて、浅井と織田を揉めさせるために何かやったのではないか?この夢を見て以降長年そう考えている。

しかしこの夢の答えはまだ出ていない。答えが自然に出てくるのを何年も待った。しかし答えが見えなかった。このままではモタモタしてるうちに私の寿命が切れてしまう。

答えを探すため、私は行かねばならなかった。夢で見た場所、金ヶ崎へ。

そうして私は2019年6月、初めて敦賀を訪れたのだった。

まさかそれがきっかけでこのあと何年も敦賀に縛られるとは思いもせずに。

応援していただけるととても嬉しいです!